2010.03.05UP
なにかに遭遇すると、それが頭から離れなくなる。今でもそうだけど、
若いころはいろんなものに反応した。
童話の本の復刻版を発見したときは、いくらかの躊躇ののちに買った。当時としては
大変なお金だったが、自分の未来の宝物として、決心したのだろう。
テーブルのいちばん左にあるのは、西条八十(やそ)の詩集。
フランス綴じといって、ページが袋状にたたまれていて、読むときはペーパーナイフで
一ページづつ淵を切りながら読むスタイル。
右側の「江戸いろはかるた」の絵は武井武雄だ。
明治・大正・昭和の3代にわたる名作全31巻の初版本そのままの復刻版は
それぞれ美しい。
小川未明の「赤い蝋燭と人魚」を今は亡き山口小夜子さんに見せたこともある。

それから40年。何回かの引っ越しや、人生の激変があって、そのたびに自分の荷物を
引きずって歩いた。
一年半前の引っ越しで、半分以上のものを整理したが、時を同じくして、親友が長野の
過疎村に居を移すことになった。
私は彼女に、この眠り姫のように眠り続けている童話たちを引越し祝いにプレゼントした。
雪深い冬の夜、炬燵に入りながら、一ページづつ読んでもらえたらいいな。
都会のエアコンの効いたトランクルームで、息をつめてあてどない時を刻むより、
本たちにとっても、ずっと幸せな気がする。
その彼女からメールがきて、村の文芸祭で、この童話が展示されたことがわかった。
その晴れ姿の写真をみてうれしかった。

そのメールにはおまけの写真がついていて、これは40代、50代、60代の女性たちによる
「白鳥の湖」だそうだ。
女性は、時代や場所を超えて、とことん楽しんで生きてゆく力を持っている
ような気がする。
どんなにはしゃぎながら、この曲のダンスをマスターしたのだろうか。

真っ青に澄み切った冬の空。葉が落ちた木々。残り雪をかぶった畑。
私もこういう風景の中で育った。
この空の続きには、輝く都会があるのだ。その東京へ出る春を待ちつづけた私
には、なかなか戻ることが出来ない場所だけど、季節のものを送ってくれる
村の人々や親友に逢いに、いつかは行ってみようと思う。
