2009.12.24UP
京都新京極は修学旅行の高校生がぞろぞろ歩いているイメージがあるが、交差する蛸薬師通りに、雛にも稀な大人の小体なカウンター酒亭がある。およそ10年以上も前に一度入っただけの店ののれんをくぐった。
カウンター10席ほどのいたってシンプルな店。洒脱な年配親方の顔は憶えがあるが若手は初めてだ。品書きは特になく、色紙に「たい、すみいか、きずし、鴨ロース、うざく」などが書いてある。まあ、刺身だな。「造り盛り合わせと、燗酒」「へい、おおきに」。お通し(付き出し、と言っていた)の「菊菜となめこの胡麻和え」はなめこのぬる身がきいて、とてもおいしい。造りは無地の青磁小鉢に、たい、いか、かつお、たこ、ほたての炙り、赤貝が色取りよく、ちょんもりと盛られ、余計な飾りのないところが実力を感じさせる。はたしてどの魚もみずみずしく、これは大人の店だ。
酒は丸い瓢形の関西徳利。最近、徳利に関東・関西型のあるのを知った。関東は細首筒型で男っぽく、関西は柔らかな丸型で女っぽい。関東は大きな一合徳利、関西は小ぶり八杓くらいだ。
奥に座る中年女性二人客が陽気だ。カウンターの若手に「あんたもちょっと、飲み」と酒を勧め「いや、アルコールはいけまへんで」とビールにしてもらっている。「お父さん、ごめんなー、ほな乾杯」と盃を上げ、親方は苦笑いだ。「この店は何年になりますか?」おいらの質問に「開店三十年、大将は昭和七年生まれ」と、そのおばはんが答え、親方はさらに苦笑い。酒をすすめられた若手は大柄、目鼻立ちのきりりとした武者人形のような渡辺謙タイプのいい男で、親方を尊敬している様子が気持ちよい。
おばはん二人は世間話になり「別れたらしまいやで」「キスしとるうちはまだ大丈夫」とえげつなくなってきた。強いこっちゃなー。軽く聞き流す親方は寄せ鍋の味をなんども確かめはじめた。
さりげない店構え、たいへん質の高い料理が普通に出てくる小さなカウンターで、客の話を肴に飲んでいるのがいい。京都にまたひとつ通える店ができた。

造り盛り合わせ
蛸八
京都市中京区新京極蛸薬師東入ル北側
電話075−231−2995
太田和彦の新刊

「太田和彦の居酒屋安旨の逸品」角川書店/925円+税
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