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2009.03.31UP

そんなにいそいで何処へ行く?

photo by taeko onuki

オーロラ撮影のため厳冬期のアラスカ山脈で
一ヶ月に及ぶ単独キャンプ生活を送った故星野道夫さんが
携行した一冊の本「エンデュアランス号漂流記」

アムンゼン VS スコットの南極点到達の戦いに続いて
イギリス人探検家シャクルトンは南極大陸横断に挑戦した。
しかし、その途上で船は氷に押しつぶされ、
絶望的な状況での漂流が始まる。
食料不足、極寒、疲労、そして病気。
過酷な試練を乗り越えながら、28人の隊員たちは、
17ヶ月に及ぶ極限の旅を経て、奇跡的な生還を果たす
その旅の全貌の書だ。

星野さんは、この一冊によって、困難な状況に耐える
勇気を得られたという。

南極は言葉を失うほど素晴らしく、恐ろしい。
まさに天国と地獄のようなところ。
私がフロンティア・スピリット号という
エクスペディション・クルーズ(探検クルーズ)船に乗って南極に行ったのは
1991年の1月~3月上旬までの2ヶ月間だった。
南極海に入る手前の海域(南緯66度30分)は太平洋と
大西洋、インド洋の暖帯の暖かい空気と南極の冷気のあいだで
たえまなく低気圧が生まれる、荒れ狂う海だ。
吠える40度、叫ぶ50度、恐ろしい60度。
全長110メートル、6700トンの船も18メートルの
高波に翻弄されれば進路を失う木の葉と同じだ。
その恐怖の洗礼を受けなければ、迎え入れてもらえないところが南極なのだ。
タスマニアのホバートを出てから12日目、テラノバ湾
にあるイタリア基地に立ち寄り、翌朝マクマード(USA)
スコット基地(NZ)を訪ね、エバンズ岬のスコット小屋へ。

1911年に建てられたスコット小屋には、壁に残されたピンナップや
手もつけられていない食料類などが当時のまま残されていた。
南極が巨大な冷蔵庫である証だろう。

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靴の雪を払い小屋に入ると、湿った古い木の匂いが冷たく漂っていた。
三つの小さな窓から僅かな光が差し込み、
小屋の一部を薄ぼんやりと照らしている。
ダルマストーブの上には錆びた鍋とやかんがのっている。
床にはまだ開けられていないコールマン社の木箱が数個、積まれたままだ。


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木でできた質素な二段ベッドが7つある。
ベッドには古びた靴下や手袋、ぺしゃんこになった革靴、
しみのついた衣類が無造作にたくさん掛かっている。

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オーツ隊員の枕もとの壁には、剥がれかかった馬の写真が貼ってある。
天井の剥き出しになった木の梁と梁の間を渡すように架けられた橇。
服の修理に使われた糸や糸巻きの並ぶ棚。

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暗室、物理学の研究台。生物、生態学の研究台。
暗室をはさんで左手奥に、右にウィルソン、左にエバンズ
手前にスコットのベッドがある。
三つのベッドの中央に小さなチャートテーブルがあり、
その上にはペンギンの死骸が仰向けに横たわっていた。
斜め上の高い位置にある明かり窓から射し込む光が、
ペンギンの光沢のある胸の辺りに落ちて、
止まってしまった時の姿が魂の抜け殻の上にくっきり張り付いている。
どのベッドも狭く小さく、硬く汚れたマットや枕、毛皮が残されている。
極点隊のスコット(43歳)、ウィルソン(39歳)、エバンズ(37歳)、
オーツ(32歳)、バワーズ(28歳)の五人のベッドは
温める者を失った後も、彼らの夢がひっそり眠っているようである。

アムンゼンが探検家であったのに対し、
スコットはおもに調査を目的として南極に赴いたにもかかわらず、
極点到達の競争に巻き込まれることになった。
犬橇中心のアムンゼンに対し、犬を主力と考えなかったスコット隊の失策は
八頭の馬だった。橇を引く主力に、犬も採用していたのだが
馬の力にたよりすぎたのだ。
スコット隊は大量のマグサも運ぶことになったのだ。
最後は馬も犬も失い、重さ約350キロの橇を徒歩で引く旅となった。
極点に到達したスコトットはアムンゼンに先を越されたことを知り
「極点、・・・・神よ、ここは恐ろしい土地だ」と日記に書いている。
うちひしがれた彼らの姿を写した極点での写真は、ほんとに悲しい。

スコット小屋を出ると、アデリーペンギンがコールマン社の木箱の
まわりで遊んでいた。いまも遭難したスコット隊はロス棚氷に眠っている。

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今から一億八千年前、地球上にはゴンドワナ大陸という大きな大陸があり、
これが分裂し移動し現在の南アメリカ、アフリカ、インド、
オーストラリア、南極の各大陸になったという説。
南極では、ラビリンスドント、リストルザウルスと呼ばれる恐竜の
先祖の化石が発見されている。
シダ状の種子植物や古生代期の氷河跡などから、
南極大陸も暖かい時期があったのだろう。
きっと、WOLLEMIPINEの化石も眠っているはず!
南極大陸に雪は五千万年前位から積もりだして今にいたると言われていて、
現在では氷の厚みの平均2450メートル。
ここは、地下水も含めた全地球の淡水の80%が氷となって
存在している巨大冷蔵庫であり、いわば水の貯蔵庫なのだ。
そしてここは、天然資源の宝庫なのだ。
北極でもすでに始まっているように、南極でも資源をめぐる争いが
いつやってくるとも知れない。
スコット隊の物語から、まだ100年。
私たちは、そんなに急いでどこへ行くのだろう。

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大貫妙子(ミュージシャン)
シンガー&ソングライター。1973年、山下達郎らと結成したシュガー・ベイブでデビューして以来、日本のポップ・ミュージックにおける女性シンガー&ソング・ライターの草分け的存在として活躍。現在までに26枚のオリジナル・アルバムをリリース。その独自の美意識に基づく繊細な音楽世界、飾らない透明な歌声で、多くの人を魅了している。

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