ttle_music08.jpg

2009.02.27UP

あの日、あの時、あの場所で

photo by taeko onuki

キリマンジャロの雪がなくなってしまいそうだという。
そんなことになったら・・・、なるかもしれないが。
その雪解けの水にたよる多くの動物たちはどうなるのか。
テレビショピングで布団乾燥機を買おうかどうか迷っている頭の中で、
同じようにアフリカの動物たちの姿を思い描く自分もいる。

zebra.jpg

キリマンジャロは、今もその雄大な姿で灼けつく大地を見下ろしている。
Kiは接頭語、limaは山、njaroは輝くという意味をもつ、
Ki-lima-njaroは輝く山という名である。
ヘミングウェイの「キリマンジャロの雪」の冒頭に
「その西側の頂上の近くに、ひからびて凍りついた豹の屍がある。
豹がそのような高いところで何を求めていたのか、
誰も説明したものはいない」という一節がある。
はたして豹は今も冷たい氷の下に眠っているのか。
その謎を解く者はいないが、榊原氏がひとつの文献を紹介している。

タンガニイカ・タイムズ1928年2月10日付
『1927年7月19日私は現地人ガイド、Oforoと二回目のウルフ・ピークを目指していた。
前回の登頂(1926年9月)で、私とガイドが噴火口の縁に位置している岩の上に置き換えた、
凍った豹をふたたび見つけた。帰り道、私はその豹の片耳を切り取り持ち帰った。
三回目の登頂の時(1927年10月14日)私は豹の頭を切り取り持ち帰るつもりだったが、
半分ミイラ化しており切れなかった』と。

この文は私の「神様の目覚まし時計」というアフリカの旅行記からの引用で、
1986年に書いたものだ。
かの豹も今は風化してアフリカの土に戻ったことだろう。
最高峰海抜六千メートルという山の頂へ、自らのテリトリーをはなれ
空気の希薄な食べるものもないそのような場所まで、
もし豹がそこを死に場所として選んだとしたならば、
それはひとつの概念をこえるロマンチシズムにほかならない。
が、豹の中にもそういった行動をたまたまとってしまったものがいる、
だけのことではないのかと私は思っている。

view.jpg

この最初に書いた、旅行記がきかっけとなり、私はその後たくさんの場所を旅することになった。
とくにアフリカへは度々足を運び、1995年頃まで、延べ一年をそこで過ごした。
野生動物は美しい。その一言に尽きる。
そして多様性の中で、絶妙なバランスを保ちながら、種を維持し平和に暮らしている。
善も悪もなく、ただ淡々と遙かな時が流れる中で起こるすべてのことは、
人間の側から見ると、嬉しい悲しい壮絶、過酷と表現しがちだけれど、
擬人化したものの見方や表現をそろそろ止めてはどうだろう。
同じような意味で弱肉強食という言いかたもあてはまらないと思うし、
いまだにテレビなどの野生動物番組で使われているのを耳にするたび、
「それ、もう古いです」とつぶやいてしまう。

アフリカでの私の仕事は、ネイチャー・マガジンへの執筆のためだった。
1990年以降はほとんどタンザニアでの取材・・・とは言わないか・・・観察ノートをとるという日々。
早朝はとてつもなく寒く、日中はとてつもなく暑い。

africa.jpg

日陰のないサバンナの日中を暑いと思うのは人間ばかりではない。
私たちの四輪駆動車を日陰にしようと、気がつくと何頭ものライオンが、よくへばりついていた。
窓から顔を出して下を見ると、わずかな日陰に体を入れてお昼寝中だ。
「ライオンは夜行性ですよね」と誰かが言った。何かに書いてあったのか、誰かに聞いた話しか。
わからないけれどアフリカの午前10時を回る頃から日没前までは、
暑くて動きまわることなんかできないでしょう。動物だって体力温存です。
私は研究者ではない、言ってみれば仕事を与えられた旅行者にすぎない。
動物たちのとる行動にいちいち理由づけはせず、
先入観ももたず見たもの起こった事実だけを記録することに心がけた・・・つもりでも、
ほんとに手をさしのべて助けたいと思ったことや、
いたたまれない光景に天を仰ぐということも幾度となくあった。
そしてその時、野生と人間との違いを明確に思い知る。
それはひたすら悲しい。起こった事実にではなく。
ただ、これは100%人社会の中から野生のフィールドに放り込まれた人間の感じることで、
野生動物たちと生活圏を共にする人たちにとっては、感情のありかも異なると思う。
アフリカの地方新聞には「ゾウに襲われた」ことなどが事故として載っているからだ。

lion.jpg


なんというあられもない寝姿。干上がった水場でお昼寝中の雌ライオン。
お腹がふくれているから、しあわせいっぱいでこの姿この様子では、あと2~3日、狩りはしないでしょう。
いよいよお腹が空いてくると、枯れ草や湿地の葦などに身を潜めるようになるので、こんな姿は見られない。

人の社会では、この20年で急速に生活のあれこれが変わってしまったけれど。
野生動物の日常は変わってはいないだろう。
あの日、あの時、あの場所で、
またお会いしましょう。

 NEXT>  

img_profile_music08.gif

大貫妙子(ミュージシャン)
シンガー&ソングライター。1973年、山下達郎らと結成したシュガー・ベイブでデビューして以来、日本のポップ・ミュージックにおける女性シンガー&ソング・ライターの草分け的存在として活躍。現在までに26枚のオリジナル・アルバムをリリース。その独自の美意識に基づく繊細な音楽世界、飾らない透明な歌声で、多くの人を魅了している。

WOLLEMIPINE[ウォレマイパイン]・・・
オーストラリアで発見された、恐竜が食べていたという「木」(2億年前に生育していた化石植物)

【ベスト・トラックス『palette』 発売中!】
TOCT-26818 ¥2500(税込)
EMI ミュージック・ジャパン
2009年4月29日発売
CM、映画、TVなどで愛され続ける大貫妙子のエヴァーグリーンな名曲たちのオフィシャル・セレクション・アルバム。本人による楽曲解説を含む、全16曲収録。

【DVD『Gratefully Yours ~PURE ACOUSTIC 2009 at JCB HALL~』発売中!】
HUBD-10918/9(2枚組) ¥5,900(税込)
2010年2月17日発売
"年末恒例”としては最後のアコースティックライブとなったPure Acoustic 2009の模様を完全パッケージとインタビュー映像を交えた、大貫妙子(単独公演としては)初のライブDVD化。
【official web site】 http://onukitaeko.jp
img_bn_music08.gif
MORE
ページ上部へ
新着紹介のRSS ラガー音楽酒場のRSS ラガー音楽酒場 e-days プレゼント&インフォメーションのRSS e-days プレゼント&インフォメーション