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私たちにとって野沢那智さんといえば、TV『0011ナポレオン・ソロ』(1966〜68年まで日本テレビ系で放映されたスパイ・シリーズ)のデヴィット・マッカラム(イリア・クリヤキン役)の声優として、また、ラジオの深夜放送(1967〜82年。TBS)での白石冬美さんとのコンビ『ナッチャコパック』として、まず強力にインプットされた。それから洋画吹き替え、アラン・ドロン、アル・パチーノ、ブルース・ウィルスの声優として、さらにアニメ作品でもよく知られ、そのお声は洋画でもアニメでも聞いただけでクレジットを見なくても分かる存在だ。
野沢さんは1963(昭和38)年に劇団薔薇座を設立し、演出家、役者、プロデューサーとして活躍、1988(昭和63)年にはミュージカル『スイート・チャリティ』で文化庁芸術祭賞を受賞している。ちなみに昨年の6月で洋画とアニメで声優として出演した数、7620本。もうそろそろ8000本になるとか。
ところで、野沢さんは「今は仕事だからこうやって一生懸命しゃべっていますけど、僕は全然しゃべれない人間だったんです」と。えっ!と驚く話だ。20代の初めの頃、舞台の世界に入り、役者としてスタートするが、スタジオでも楽屋でも黙って文庫本を読んでいる青年だったらしい。声優を始めたが、辞めようと思い会社に挨拶に行くと『落ちるけど、行くだけ行って』と義理で行かされたイリア・クリヤキン役のオーディションでなぜか決まってしまう。その後
『パックインミュージック』の依頼が。
「3回は電話でお断りして、4回目はプロデューサーに悪いからTBSへ直接行って断ろうと。するとそのプロデューサーが僕よりも無口な方で、レストランで話をしたんですが、僕が『ラジオが好きなんですか?』って聞いたら『いえ、別に』。で、6回目に会ったときに『この人と1週間に1度会うのは面白いな』と思い、3カ月間という約束で始めました。動機はそれだけですよ」
なぜ、野沢さんがパックインかというと、それは白石冬美さんがそのプロデューサーから相談を受けて「普段何もしゃべらないから、きっとしゃべったら面白いと思う」と言ったことから始まっている。「僕が人と口をきかなかったのは、おのれの中身がバレるのが怖かったからだったんだと3カ月間の放送で思い知らされました。そこでプロデューサーに『もうダメです』と言ったら、見通されていたかのように『だったら手紙(リスナーからのハガキ)を読むのならいいでしょ?朗読ならいいんじゃないですか?』と言われ、まぁ来た手紙がみんな面白かったんですね。どんどん手紙をくれた皆さんのおかげで15年も続いたんですよ」
声優としては映画『ゴッドファーザー』のアル・パチーノの吹き替えがいちばん好きだという。そして、野沢さんは舞台の人でもある。
「僕は若い頃いい気になって『どうだ上手だろ!』なんて生意気な顔をして
やっていたんだけど、ニューヨークでアル・パチーノの舞台『アメリカン・バッファロー』を観ちゃったんです。俳優なんて言葉じゃ言い表せないぐらい強靭ですよ。セリフなんて僕らの既成概念ではとらえきれない。とにかく叫ぶ!叫び続ける!あんたはどこで息をするんだ(笑)っていうぐらい凄い。『リチャード三世』も観ましたけど、これ観て泣いちゃったんです。この体験で、僕は彼のセリフや演技を日本語に移し替えるには、相当修業しなくちゃアカンぞと」
野沢さんは、現在指導者としての立場から若手にこんな話をする。
「大スターは誰だって全米何万人、何十万人の中からオーディションをくぐり抜けて、それで金的を射止めてスターになっていく。だから君たちの何百倍上手いんだよって。その人たちのセリフや演技を日本語で再現するんだから、やっぱり芝居ができなきゃ。安直にマイクの前で台本読むのとは全然違うんだってね。映画だけ観ていても分からないんですよ。でも舞台を観ちゃうと『この人の芝居を再現するのかよ!』になるんです」
野沢さんの劇団薔薇座からは戸田恵子さんを始め多くの俳優が巣立っている。野沢さんは仕事を終えると、スタッフたちとまずはビールを飲みにいく。その一口目がたまらなく美味しいらしい。
「燦然」は、銀座でリーズナブルにしゃぶしゃぶが味わえるお店。ここで使用されている「燦然豚」は、柔らかいのにしっかり弾力があって、しっとりとした味わい。しゃぶしゃぶにするとより一層その旨さが際立ちます。しかも安い!
今回僕がいただいた3,500円の「浅葱(あさぎ)」は、しゃぶしゃぶ(燦然豚バラ&ロース)はもちろん、「三種の前菜盛り合わせ」や「季節の野菜盛り」など、旬の素材を使った料理も楽しめるコース。さらに締めには「山形そば」(または「こだわりたまご雑炊」)も。いろんなものを少しずつ味わえておすすめですよ。
ちなみに声優っていうのは、重箱の隅をつつくようなスタジオ・ワーク。しゃべる我々ももちろん疲れますが、ディレクターも人のセリフを聞いてその瞬間、瞬間にOKか、それとも録り直すかを判断する訳ですから、そりゃ大変だと思いますよ。だからこそ、終わったあとはみんなでいっせいに飲みに行って、「お疲れさまー!」で、まずビール。仕事しているのはこの瞬間のためだけじゃないかな(笑)。
そして、そんなひとときにはしゃぶしゃぶがよく似合います。それまでのスタジオでの緊張感が全部ほどけて「オイ、それ俺の肉だろ?」なんて、楽しく肉の取り合いをしながらね(笑)。

1938年東京生まれ。アラン・ドロン、アル・パチーノなどあまたの外国映画の吹き替えで声優として活躍。2008年には「第2回声優アワード」受賞。現在も演出家、声優として活躍する傍ら、これまで培ってきたキャリアを活かし後進の育成にも力を注いでいる。