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小倉エージさんもまたビートルズに衝撃を受け、ボブ・ディランを好きになり、大学生になると、文化人類学的にビートルズを調べ、他のロックのレコードを買い漁りどんどんのめり込む。音楽評を書き出したのもこの頃からだ。大学卒業後、URCレコードのディレクターとなり、はっぴいえんどのデビューアルバム(ゆでめん:1970年)の制作を手がける。当時、外国のロックやポップスを聴いていた音楽ファンに、はっぴいえんどの音楽は他とは違う印象が強かった。先進的な音、日本語によるオリジナルのロック。
「細野君たちが当時影響を受けていたバッファロー・スプリングフィールドやモビー・グレープなんか僕も好きで、是非とも細野君たちが結成したグループのレコードを作りたいと、話を持ちかけたんです。普通は先に生演奏を聞いたり、デモ・テープを聞いたりしてからレ
コード制作の話をするんですが、細野君たちのアイデア、話を聞いただけでやりたい、やろう!って決めていました。それで、デモ・テープを制作して、会社を説得したんです。日本語の歌詞によるオリジナルというのが僕の一番の条件だったんですが、それは彼らが目指していたことでもあった。彼らがやりたいことを実現するための手助けになればいいと。でも、率直に感想を述べたり、注文をつけたりすることもありましたから、うるさがられたと思います(笑)」
エージさんはその後、音楽評論家として活動。75年鈴木茂氏のレコーディング取材でサンフランシスコへ。
「茂君にチャイナタウンへ連れて行かれ、初めてエビのチリソース煮を食べ、驚いた。神戸生まれで中国料理には子供の頃から馴染んでましたが、四川料理は食べたことがなかった」
元来、エージさんは凝り性で好奇心が旺盛な人。これがきっかけとなり中国料理について勉強し、東京中の中国料理店を巡る。そして79年初めて香港へ。
「香港の広東料理、飲茶に出会って、打ちのめされました。同時に、それまで勉強してきた中国料理の知識が何の役にも立たないことを痛感し、それから香港通い(笑)」
中国料理への執念は今日も続く。地方料理の歴史から素材、調理、料理人の動向とあらゆることに精通している。香港の一流店ではエージさんを知らない人はいない。そんなエージさんが、おすすめなのが「彩雲瑞」。シェフの千脇さんを修業時代から14年も見守っている。やはりいい音楽もいい料理も、愛する人がいればこそ。
ここ数年、中国料理は若い世代の活躍が目覚ましいんですが、その中でも特に注目すべき料理人が、この「彩雲瑞」の千脇幸夫さんです。吉祥寺の名店「知味 竹爐山房」の山本豊氏のもとで14年間修業を積んだ千脇さんは、中国料理の原点をしっかり踏襲。その上で自分のスタイルを追求しているところが、すごく面白いですね。
今回の「麻婆豆腐」は、油を巧みに使うテクニックで味と香りを豆腐に封じこめ、「猪の紅麹煮」や「乾焼明蝦」では、縁起が良いとされる赤や緑、金など、見た目に美しく仕上げた「色」、それに「香り」、「味」のバランスが素晴らしい。
さらに、これらの料理はビールにもよく合います。ビール特有の苦みやキレの良さが引き立つので、“とりあえず”じゃなくて、“絶対”ビールがいいですよ。


1946年神戸市生まれ。音楽評論家、料理評論家として幅広く活躍。著書も多数。最近は、ブログ「小倉エージの旨いもん食った、いいもん聞いた」も好評連載中。