


ムーンライダーズのアルバム『カメラ=万年筆』がリリースされたのは1980(昭和55)年のこと。マスターはこのレコードを原宿にあったカフェ・バー(80年はカフェ・バーという呼び方はまだされていなかった)のような店で手にした。ゾクゾクっときたことを昨日のことのように覚えている。
その店は知り合いたちの溜まり場だった。そこには「探訪ノート」にご登場いただいた鈴木慶一さんやムーンライダーズのメンバーたちもやってきて、他にはコピーライターやイラストレーター、カメラマン、雑誌の編集者、ライター、スタイリスト、ミュージシャンなどが集った。店内の中央にある大きなテーブル席に誰かがいて、そこに1人、2人、と集まり、気がつけば7〜8人になっていた。『カメラ=万年筆』はそこに来ていたカメラマンがカヴァーの撮影をしていた。
今回久しぶりにお会いした鈴木慶一さんと、その頃の話になったのだが、慶一さんは開口一番に「随分老けたね」とマスターに言うのであった。28年もの月日が流れ、当時20代だったからしてまったくその通りなのだが、面と向かって言われると月日の経つのが何と早いことかと“しみじみ”としてしまう。
「あの頃は、携帯電話もパソコンもなかったんだよね」と慶一さん。ここでマスターは「溜まり場=パソコン」といった図式が浮かぶ。と、いうのは溜まり場でみんなでそれこそ新しく出たレコードのことや、気になる映画や本、ファッションなどなどいろんなことを話していたのだ。激論を交わすということはなかったが、なんとなくそれぞれ得意分野があって、やたらモノに詳しい友人がアメ横で探して来たペンなどを見せてくれたり、ボールペンで字を書くとヘタに見えるのはなぜかなど話し合った。また、携帯電話はないので、そのお店に呼び出しの電話がかかってきたりしたものだ。
そういえば、その頃、宮崎美子さんが木陰でTシャツとGパンをはにかみながら脱いでビキニ姿になるという『いまのキミはピカピカに光って』のTVCMが話題で、これも慶一さんが作曲していた。

マスターは慶一さんと別れた後に、仕事場へ戻り一休み。当時の雑誌なんかをペラリする。しかし「ひとり=つまらない」である。これは幾つになっても変わらない。溜まり場が懐かしい。
夏の夕方、空はまだ明るくて、雲もゆっくり動いている。(しみじみした思いをひきずっているマスター)そうだ! 後輩を誘って焼き肉屋へ行こうとなる。冷えたラガーも待っている。カルビをサンチュに巻いて(ちょっと辛い味噌なんかつけてね)、そしてビールと考えるともうダメ。さぁ、夏は元気出していきましょう!