

シンセサイザー・ミュージックのパイオニアであり、世界的な作曲者として活躍する喜多郎。シンセサイザー黎明期から、その未知の楽器に可能性を見出した彼は、ファー・イースト・ファミリー・バンドで活躍後、78年にソロ・デビュー。以後、30年を越えるキャリアを通じて、独自のサウンドを追求してきた。自然からインスパイアを受け、深い精神性を感じさせるそのサウンドは、高い評価を受けてゴールデングローブ賞やグラミー賞を受賞。最近では、映画監督チャン・イーモウが演出を手掛けた舞台「印象西湖」のために書き下ろした楽曲を、新作『インプレッションズ』としてリリースしたばかりだ。9月21日、26日にはグラミー賞受賞後初の日本ツアーを控えるなか、これまでの音楽人生、そして、音楽観を語ってもらった。
取材・文:村尾泰郎/写真:神ノ川智早
―― 喜多郎さんといえば、日本のシンセサイザー・ミュージックの第一人者ですが、シンセサイザーとはいつ頃、どんな風に出会ったんですか?
ファー・イースト(・ファミリー・バンド)の前ですね。渋谷のYAMAHAで見たんです。僕が最初に買ったのはミニ・ムーグってやつなんですけど、まだ、ほとんど誰も使ってない頃で、どうやって使うか全然わからない。しかもマニュアルが英語で難しい電気用語だったんです。〈これ、なんなんだろう〉と思って、一日触っていても音がなかなか出なかった。
―― まず音が出ないんですか(笑)。
そう(笑)。ずーっと音が出ない状態だったんだけど、ある時、ふっと波みたいな音が出たわけ。今考えればすごい簡単なことなんだけど、ノイズを入れてフィルターを動かせばそういう音が出るんですよ。でも、その音が僕にとってはとても画期的で、その波みたいな音を聴いたら海の情景が浮かんだんですよ。「これまでは鍵盤の組み合わせで音楽を作ってきたけど、この楽器で違う次元に行ける」と思いました。この楽器は情景を作れる楽器なんだと。最近の若い人たちで、そういった使い方をしている人は、そう多くはいないと思いますね。

―― シンセサイザーの使い方については、76年にファー・イースト・ファミリー・バンドでヨーロッパにレコーディングに行った時、プロデュースを担当したクラウス・シュルツ※から学ぶことが多かったとか。
今からすればすごくシンプルなんですけど、クラウスはシンセサイザーの使い方について、いろんなアイディアを持ってる人なんですよ。そんな特別なことでもないんだけど、当時では「へえ~、そういうこともできるんだ」みたいな。そういうアイディアをいろいろ見たり、それをまた自分で使ってみたりしたんです。そのアイディアは今でも使ってますよ。それは古いとか新しいとかあんまり関係ないというか、(シンセサイザーを使ううえでの)基本でしょうね。その頃のムーグも今でも使ってます。
―― もう、30年以上経ってますよね。
35、36年くらい経つかなあ。ボブ・ムーグ※さんが亡くなる前に話をしたことがあって、その時に、僕のミニ・ムーグの部品が劣化してきてるから、パーツを送ってくれないかと頼んだんです。そしたら、後でちゃんと送ってくれましたよ。
―― 開発者みずから? いい話ですね。
そういえばテルミンって楽器があるじゃないですか。いま、ムーグの会社で作っているんだけど、1台だけ"ミディ・セラミー"っていうのを作ったんですよ。それを僕は持ってるんです。これは多分、世界に1台しかないと思う。それはムーグ博士が亡くなる5年ぐらい前に作って、僕が「あ、じゃあ、買いますよ」って買ったんです。その後、ムーグはそのテルミンを商品にしようとしたんだけど、エンジニアがいなくてなかなか進まなくて。結局1台しか出来てないと思うんですよね。
ファー・イースト・ファミリー・バンドのメンバーとして活躍し、70年代後半にソロ活動を開始。1980年には、音楽を担当したNHK制作のドキュメンタリー番組「シルクロード」がヒットし、テーマ曲が代表曲の1つとなる。
1994年には、映画「天と地(Heaven & Earth)」のサウンドトラックがゴール
デングローブ賞作曲賞を受賞。 2001年には、アルバム『Thinking of you』がグラミー賞を受賞した。現在は北カリフォルニア州に移住し、10年に及ぶ音楽プロジェクト「空海の旅」を進めている。9月21日・26日には、ワールドツアー"Love&Peace Planet Music Tour"の日本公演が行われることが決まっている。

2009年9月2日発売
ASCM-6059
¥3,200(税込)
発売元:株式会社HEI グローバル・エンタテインメント
販売元:アミューズソフトエンタテインメント株式会社
映画『HERO』、『LOVERS』などの監督としても知られ、北京オリンピックの総合演出も手掛けたチャン・イーモウが演出した舞台「西湖印象」のために書き下ろされた楽曲を収録した作品。オーディション番組からデビューを果たし、中国の国民的スター歌手に上り詰めたジェーン・チャンが、メイン・テーマ曲“Impressions Of The West Lake”を歌っていることも話題となっている。
