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2010.02.16UP

もう一度聴きたい、Produced By Phil Spector

 寒い朝、今日は休み。あまり表に出たくない。こんな日は本を読むに限ります。昔はよく読んだ文庫本、最近は目が疲れてダメ、読み続けるのは新書版の大きさがギリギリ。

 それにしても、若い方が本を読まなくなったのか、それだから中高年読者が増えたようなのか、最近は、新聞も含め大きなフォントを使う活字媒体が増えてくれて助かります。

 しかし、音楽がどんどんデジタル化されダウン・ロードで売買される時代になるのと同じように、あと十年もすると、活字メディアも、KindleやiPadのような読書機能がついたタブレット型コンピュータが当たり前の時代になるのでしょうか。

 そんなこと思うと、紙で作られた本がいとおしい、抱きしめてあげたい・・なんて思いつつ、読んだ本は「ウォール・オブ・ペイン」(苦しみの壁)、デイブ・トンプソン著〈Omnibus Books〉。久しぶりに読むフィル・スペクター本だ。名プロデューサーであったフィル・スペクターが自宅でラナ・クラークソンを射殺したあと、話題が消えないうちに速攻で出版されたフィル・スペクター本の一冊、それが改訂版になって出版された。

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「ウォール・オブ・ペイン」、デイブ・トンプソン著〈Omnibus Books〉

 表紙を見てなんだかイヤな感じがしたのだけれど、天才と狂気が同居したフィル・スペクターの、やはり狂気の方に重きを置いた内容だった。彼が泥沼から這い上がろうとして最後にプロデュースを手掛けたバンド、スターセイラーのエピソードやジョン・レノンと一緒のレコーディング風景など、細かい聞き込み取材があり面白い。が、どうしても「伝説のレコード・プロデューサーが女優を射殺した」ことに重きが置かれてしまう。異常なほどサディスティックだったレコーディング状況も、結局はあの事件に集約されてしまうのかと思うと悲しいね。

 フィル・スペクターをテーマにした本は、何冊も発売されている。全部読んだわけではないけれど、一番良かったのは、彼の内面を垣間見るようだったイギリスの音楽ジャーナリスト、ミック・ブラウンの「テアリング・ダウン・ザ・ウォール・オブ・サウンド」(音の壁の裂け目)〈KNOPF出版〉。偶然にも事件の直前、奇跡のように行われた4時間にわたるインタビューが、フィル・スペクターの奇妙な生活と性格を描写し、著者の対象者に対する敬愛の念も感じられ、良い。

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テアリング・ダウン・ザ・ウォール・オブ・サウンド」ミック・ブラウン著〈KNOPF出版〉

 もっとも派手なのは、事件後すぐに発売された「レックレス」(むちゃくちゃ)、カールトン・スミス著〈St.Martin出版〉。アメリカ芸能界の暴露もの・インサイダーものの内容は、もう訴訟ギリギリのすごいものが多いのだが、さすが名うての芸能ジャーナリスト、カールトン・スミス、本当のことも噂のことも、多分全部混ぜこぜ。フィル・スペクター、殺人の夜の行動など、まるで一緒に行動しているようで、ショックです。

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「レックレス」、カールトン・スミス著〈St.Martin出版〉

 フィル・スペクターが受けた判決19年という刑は長い。刑務所から出て来るとき、彼は88歳になっている勘定だ。だからといって、アメリカのことだ、レコード作りに関しては、なにが起こるかわからない。

 ずーっと昔、1950年代にジョニー・レイが放った世界的大ヒット曲「雨に歩けば」のオリジナルは、ザ・プリズネアーズという本物の囚人たちが歌ったものだ。当時、テネシー州の刑務所内で人気が高い素敵なコーラス隊だというので、特別に一時出所が許され、シャバのレコーディング・スタジオで録音されたものだ。

 そしてアメリカの近代フォーク・ソングの父とよばれる故アラン・ロマックスの弁によれば、刑務所内には、音楽に関する宝物がたくさんある。それは死刑、あるいは長期の刑を受けた囚人達なのだという。彼らは、新聞やテレビや社会との接触が少ないので、新しい流行や雑念に左右されることなく、昔の歌やメロディーをそのまま覚えていることが多いのだという。実際、アラン・ロマックスが1940年代、地方の刑務所を回って囚人本人に面会し録音した歌の数々、多くは黒人ブルースだが、いまやアメリカ・ポピュラー音楽史の宝物になっている。出所後、有名になったブルース歌手も多い。

 フィル・スペクターも、願わくば、ラナ・クラークソンのご遺族に心からの謝罪を済ませるためにも、また音楽作りをしてもらいたいのだが、そんなことは許されないのだろうか。

 いま、音楽のルーツを探して、1960年代の音楽を聴いている若者も多いと聞く。右腕だったアレンジャーのジャック・ニッチェもサウンド・エンジニアのラリー・レヴィンもすでにこの世にはいないけれど、フィル・スペクター、なんとか改心して、昔風の作り方でけっこう、もう一度、あの「ウォール・オブ・サウンド」を手がけてもらいたい。皮肉でもジョークでもなく、回りは全部「壁」なのだから、なんとかなりそうに思うのだ。良く話に聞くような他の囚人からの暴力さえなければ、刑務所,人によっては、最高の環境だともいえなくもない。僕はゴメンだが・・・。

 もう一度、フィル・スペクターの作る音楽を聴いてみたい。罪を憎んで、人を憎まず。いま、フィル・スペクターの作った音楽がいとおしく感じるのは、何故なぜだろう。もうすぐ、消え去る運命だからだろうか?

 でも、そんなことはない。いつ聴いても素晴らしいんですよ、「リヴァー・ディープ、マウンテン・ハイ」by Ike & Tina Turner。何度聴いても飽きないんですよ、「ボーン・トゥ・ビー・ウイズ・ユー」 by Dion。

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亀渕昭信
1942年、北海道札幌で生まれ夕張郡由仁町で育つ。64年、東京のラジオ局ニッポン放送入社、番組制作部勤務。69年から4年間、深夜放送「オールナイトニッポン」のDJパーソナリティも担当。同僚の斎藤安弘氏とデュオ“カメ&アンコー”や一人四重唱のカメカメ合唱団でシングル「心のシャンソン」、泉谷しげるとのコラボでLP「カメカメ合唱団」(エレック)を発表する。99年から6年間同社代表取締役。現在はラジオ業界を離れ、ライフ・ワークでもあるポピュラー音楽の歴史・研究に邁進すると同時に、NHKラジオ第一放送とNHKデジタル・ラジオで隔週50分のクラシック・ポップス・ヒットがメインの音楽番組「亀渕昭信のいくつになってもロケン・ロール」のDJを担当。著書に「オールナイトニッポン」聴取者との交流を描いた『35年目のリクエスト』(白泉社)がある。

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