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2009.12.28UP

ニック・ウォーカー来日リポート 最終回

前回、話だけで終わらせてしまった『DRUM & BASS SESSIONS 2009』(11月21日、代官山UNIT)でのライヴ・ペインティングの写真を、まずはご覧いただこう。

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この夜は午前1時、DJ・DIEとの競演という形で始まったのだが、用意された縦1.6m X 横2.6mの巨大なホワイトボードを前に、まずはニックがフリーハンドで背景を描き始めると、アッという間に落書きされた街の壁のような風景へと変わっていった。

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ステージ後方のスクリーンには、ニックのこれまでの作品やライヴ・ペインティングの様子が映し出される中で繰り広げられたドラムン・ベースとのコラボレーション。それはブリストルのストリートの匂いがダイレクトに伝わってくるような臨場感に溢れたもので、クラブ・イベントの可能性を大きく拡げる実に刺激的なものだった。

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それから約2時間、DJがKRUSTに替わってからも、ニックは手を休めることなく作業を続行。次々と持参したステンシルを選びながらボードにスプレーで塗り重ねて行くこと更に2時間、ようやく完成したのがこの大作である。

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そんなわけで早朝5時近くまでのオールナイト・イベントを終えた22日は、完全オフ日。ニックは原宿のキディランドに行き、子供達へのクリスマス・プレゼントを大量に買い込んだり、気儘に東京を楽しんだようだが、翌23日の最終日は、午前11時過ぎから都内3カ所のペインティングに忙しく動き回った。

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この日はまず、神田神保町のギャラリーかわまつの壁からスタート。ここで取り出したステンシルは、蝶の羽と身体にトラのような猛獣の顔が付いたユニークな作品。例によってズレないように慎重にステンシルを重ね、約1時間かけてカラフルな作品が完成した。オマケに並んでいたプランターにもシルクハットをペインティングしてから、もう一度、恵比寿のリキッドルームに向かった。

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リキッドルームでは、18日に正面入り口上部に描いた『The Morning After Tokyo』に続き、マネージャーのリクエストで目黒川沿いの窓ガラスに蝶を描くことに。

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これを僅か20分ほどで描き終えると、遅いランチをタイムアウト・カフェでとり、渋谷の井の頭通り沿い(東急ハンズの先)にあるマンハッタンレコードに5時頃に到着。既に辺りが暗くなり始めた中、日本で最後のストリート・ペインティングを開始した。

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この場所は東京でも数少ないグラフィティ・エリアとあって、周辺にはたくさんのグラフィティが描かれているのだが、そんな場所に相応しくニックが選んだのは、自らのトレードマークである"APISH ANGEL"と、"VANDALISM"のステンシル。今回の来日中、このモチーフを使ったのはこれが初めてで、シンプルながら強烈な自己主張が込められた作品だ。"VANDALISM"とは、もともとは公共施設などの破壊、非文化的行為といった意味だが、そんなグラフィティをステンシルを使うことで芸術の域まで高めてしまったニック・ウォーカーやバンクシーの登場と成功は、やはり21世紀のニュー・アート誕生と呼ぶに相応しい。

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ところで今回、ニックと数日間行動を共にしながら雑談をする中で、いろいろと興味深い話を聴くことが出来た。例えばイギリスのオークション会社やアート関係者が、グラフィティ・アートとは呼ばずにアーバン・アートという名称でカテゴライズしようとしていることに対し、ニック自身は「ストリート・アートと呼ぶのが一番しっくりするし、それでいいんじゃないのかな」とのことで、"アーバン・アート"という呼称は好きではないとのことだった。

また、彼自身がグラフィティ・アーティストになりたいと思った直接のきっかけは、セックス・ピストルズのマネージャーとしても有名なマルコム・マクラレンの「バッファロー・ギャルズ」(1983年)のプロモ・クリップだったそう。このヒップホップ・カルチャー全般を紹介するような(ダンス、スクラッチ、グラフィティ)映像の中で、壁に向かってスプレーで文字を描く場面(特に女の子達がスプレー・ペイントするのを見つめているエンディング)に心を奪われ、まだ10代半ばだった彼は、将来はグラフィティを描く人になりたいと思ったのだとか。

ニックが言うには、このビデオの影響力はパンク・ロックの登場と同じくらい大きなものだったとのことで、同世代の友人達がDJやダンサー、グラフィティ・アーティストに憧れるようになり、イギリスでヒップホップ・カルチャーが一気に広まったのもこのビデオがあったからこそとの話が興味深かった。と言うのもこの曲はリアルタイムで聴いて知ってはいたが、日本ではそこまで影響力のある新しいストリート・カルチャーだという空気感のようなものが、なかなか実感出来なかったからだ。

また余談ながら、あるファンが最近ネットに出回ったバンクシー本人とされる写真について、携帯に取り込んだ写真を見せながら本物かどうかニックに訊ねたところ、ニックは「本物と肯定はしないけど、否定もしない」と答えていたのも面白かった。恐らくニックも訊かれ慣れている質問なのだろうが、同郷で昔からの知り合いでもある一般的には謎に包まれたアーティストの正体について、やはり本人の希望どおり謎にしておくのが友人であり大人の対応というものだろう。

そんなわけで、ニック・ウォーカー来日リポート、いかがだったでしょうか?
ニックは翌24日に帰国し、12月上旬にはマイアミのストリートアート・フェスに参加。2010年はニューヨークでソロ・ショーも控えているだけに忙しい一年になりそうだが、春頃には是非日本で大きなストリート・ボム(ペインティング)を描きたいと言っていたので、それが実現するのを楽しみに待つことにしよう。


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PS ニックから届いたクリスマスカード『Moona Lisa』です。

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保科好宏
(ロック評論家/コーディネイター)
長野県須坂市出身。著書に『ロック人名辞典』(共著/音楽之友社)『ザ・フー・ファイル』(監修/シンコー・ミュージック)などがある。趣味はロックと現代アート。
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