2009.11.10UP

先日(11月2日)に発表されたイギリスのロック誌「CLASSIC ROCK」主催による〈CLASSIC ROCK ROLL OF HONOUR AWARDS 2009〉で、カナダのヘヴィ・メタルバンド、アンヴィルのドキュメンタリー映画『アンヴィル!~夢を諦めきれない男たち~』が、見事〈DVD/FILM OF THE YEAR〉部門を受賞した。(ニュース参照)いくらヘヴィ・メタル、ハード・ロック系の雑誌とは言え、アイアン・メイデンやキッス、ローリング・ストーンズを抑えての受賞は快挙に違いなく、それだけこの映画の出来が素晴らし
かったということだろう。
日本でも10月24日からロードショー公開され、TVスポットもかなり流れたので知っている人も少なくないと思うが、実際に映画を観た人はどのくらいいるのだろう? 実は僕自身も最初はそれほど観たいと思っていたわけではないのだが、ダスティン・ホフマンの「この映画を見るまでヘヴィメタが大嫌いだった。しかしこれは、今まで見たなかでもっとも心が揺さぶられた映画だ」や、あのマイケル・ムーア監督の「ここ数年のドキュメンタリーで最高傑作!!」という推薦コピーを見て、ちょっと観ておきたいと思ったわけだ。
で、実際にこの映画、アンヴィルというバンドのことを知らなくても、ヘヴィ・メタルに興味がなくても、いつの間にか彼らの生き様に感情移入し、何度も笑い、また泣かされてしまう、本当に2人のコメント通りの極めて優れたドキュメンタリー映画として楽しめた。
因みにアンヴィル(ANVIL)は、81年に『ハード・アンド・ヘヴィ』でデビューし、80年代にそれなりに話題になった知る人ぞ知るカナダのヘヴィ・メタル・バンドである。84年に『SUPER ROCK '84 IN JAPAN 』で来日し、ボン・ジョヴィやスコーピオンズ、ホワイト・スネイク、マイケル・シェンカー・グループと共演。彼ら以外のバンドは全て大成功を収めたが、彼らだけはそれほど売れることなく低迷。それでも"パワー・メタルの父""スラッシュ・メタルのゴッドファーザー"としてメタル・ファンに認知され、メタリカやスレイヤー、アンスラックス、スラッシュ等、アンヴィルの影響を口にする大物アーティストも数多い。

現在も活動を続けているスティーヴ・"リップス"・クドロー(g,vo)とロブ・ライナー(dr)の10代からの親友がオリジナル・メンバーで、何よりも凄いのは、81年から09年まで、5年ほど間が空いたことはあるものの、一度も解散することなく計15枚ものアルバムを発表し続けてきたことだ。
そんなアンヴィルだが、ただ彼ら自身が本当に「夢を諦めきれない」のか「夢を追い続けている」かどうかは少し疑問で、恐らく彼らも50歳を過ぎた今、本気で売れるとは思っていなかったのではないかと思う。それよりも彼らは単に音楽やステージに立つことや、ツアーやミュージシャンとしての生活が大好きだから可能な限りバンドを続けていたい、というのが最大のモチベーションのように思う。
映画の中で笑えたのは、ヨーロッパ・ツアー中の野外フェスティヴァルへの出演時、よほどメジャーなフェスへの参加が嬉しかったのか、マイケル・シェンカーを始め、大物アーティストをバック・ステージで見かけるとすぐに走り寄り、まるでファンのように興奮して話しかけていたことだ。そのピクニック気分がツアーを続けるうち、東ヨーロッパではライヴ・ハウスの観客が僅か数人だったり、ギャラを踏み倒されたり、列車に乗り遅れて野宿したり、アンヴィルがヘッドライナーの"モンスターズ・オブ・トランシルヴァニア・フェスティヴァル"では、1万人の会場に観客が百数十人だったりと、いい歳をしたベテラン・バンドが新人バンド以下の待遇で続く悲惨なツアー状況を見ていると、笑っているうちに何故か泣けてくる。

ただ冷静に考えてみれば、売れなかった同じようなバンドは世界中に山ほどいるわけで、彼らの他にも趣味程度とは言え細々と活動しているバンドもいないわけではない。そんな中でアンヴィルが幸運だったのは、たまたまロンドンで出会ったファンの一人で、16歳の夏に北米ツアーにローディーとして参加したのを機に3度もツアーに同行したサーシャ・ガバシ少年が、後に脚本家としてスティーヴン・スピルバーグ監督の『ターミナル』の脚本を手掛けるなど映画界で大成功していたことだろう。
そのサーシャ・ガバシが、05年に突然懐かしくなって彼らに連絡を取ったことから、このドキュメンタリー映画の構想が生まれ、完成した映画は世界各国の映画祭で喝采を浴び、音楽もののドキュメンタリーという難しいジャンルにも拘わらず、日本でも公開の運びとなった。この映画を機に、現在アンヴィルは全日程ではないもののAC/DCのワールド・ツアーのオープニング・アクトに抜擢され、スタジアムやアリーナといった大会場で演奏する機会に恵まれ、AC/DCのファンからも大喝采を浴びているというから嬉しい。

本来ならルーザー(負け犬)と呼ばれてもおかしくないポジションのバンドなのに、それでも止めずに続けていたからこそ、今回のような思わぬチャンスが巡ってきたのだろうと思う。たまにはこんなオヤジ・バンドの敗者復活があってもいいと思うし、たとえ彼らが大成功しなかったとしても、この映画を見れば世の中もまだまだ捨てたもんじゃないと思えるはずだ。
