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2009.08.13UP

バンクシーを中心とするグラフィティ/アーバン・アート・ムーヴメントとは?

いよいよ目前に迫った渋谷Bunkamuraギャラリーでのグラフィティ/アーバン・アート展
実は7月20日過ぎ、このアート展でライヴ・ペインティング(8月15日、土曜日午後3時から)を披露してくれる
ゲスト・アーティスト、ヨーロピアン・ボブとの打ち合わせのためにロンドンに行ってきました。

ヨーロピアン・ボブはまだ二十歳そこそこの若い2人組ながら、作品のアイデアやステンシル・テクニックは
かなりレベルが高く、グラフィティ・アートのメッカ、東ロンドンでも注目されている注目アーティストです。
それだけに、彼らのライヴ・ペインティングは本当に楽しみです。

European Bob_EB_InGodWeTrust.JPG European Bob_EB_SafeSex.JPG

今回、彼らは日本でのショーのために新作プリントと、新作のエディション・キャンバス、そしてTシャツも
用意してヤル気満々。もちろんこれまでの作品も全て展示するのでイギリスのストリート・アーティストが、
実際どのようにステンシルとスプレーを使って作品を作り上げるのか、実際に見られるチャンスです。

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また今回、ロンドンでいくつかギャラリーを廻って面白い作品がないかチェックしてきましたが、
その中で一番の収穫は、フェイル(Faile)の「MJ (Edition1)」でした。MJとはもちろんマイケル・ジャクソンのこと。
しかも急逝して間もないタイミングで注目度も高いだけに、まさかこの06年作品を入手できるとは思ってもいませんでした。

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フェイルはイギリスのアーティストではなく、ニューヨークはブルックリンを拠点とするアメリカ人、カナダ人、そして86年までは日本人のAIKOさんも在籍したグラフィティ・アート・チームですが、唯一と言っていいほど、イギリスでも絶大な人気を誇るアメリカのアーティストです。彼らの人気と評価は、サザビーズやクリスティーズといったメジャー・オークションでのこれまでの結果を見れば分かるように、実績は間違いなくバンクシーに次ぐナンバー2。

そんなアーティストの限定24部のシルクスクリーン+アクリルのマイケル・ジャクソン作品に出会えるとは、本当にラッキーのひと言です。当然、すぐに購入したのは言うまでもないですが、この作品もBunkamuraのグラフィティ/アーバン・アート展に出品しますのでお楽しみに!

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もちろん今回の展示作品には、日本初公開となるバンクシーのキャンバス作品もあり、オリジナルのシルクスクリーン作品も10点以上とそれだけでも見応え充分。更にニック・ウォーカー、ジェイミー・リードのキャンバスとプリント、D*Face、ブレック・レ・ラット、Aiko、プロール等、20アーティスト以上の作品が100点以上も展示され、しかも入場無料で見られるのだから、グラフィティ、アーバン・アート・ファンは必見でしょう。そうそう、レディオヘッドのアートワークを手掛けたスタンリー・ドンウッドの代表作「Pacific Coast」もあります。

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そんなわけで、出展される作品についての紹介はキリがないのでこの辺にしておきますが、とにかく百聞は一見に如かず、ぜひ会場に足を運んで見て下さい!

で、今回のテーマ。現在のイギリスを中心とするグラフィティ/アーバン・アート・ムーヴメントは、やはりバンクシーを抜きには語れません。そもそもは90年代に地方都市、ブリストルで、マッシヴ・アタックの3Dやニック・ウォーカー、バンクシー等が、街中の壁にメッセージ性の高いグラフィティをステンシルを使って描き始めたのが全ての始まりだった。ステンシルを使い始めたのは、質の高い絵や読みやすいメッセージを簡単に描けるという利点もあるが、何よりも短時間で作業を終えられることから警察に捕まるリスクが少ないというのが最大の理由だったようだ。

そんなグラフィティ・アーティスト達のセンスの良い落書きが徐々に評判になると、地元ブリストルのクラブ系のインディ・レーベルの目に留まり、ジャケットのアートワークからレーベル・ロゴのデザイン等を任されるようになって少しずつ仕事に発展。各アーティストも地元での活動だけでなく、ロンドンに進出して街中の壁に作品を発表したり、ギャラリーでグループ展をやったり、彼らの作品を欲しいという人のためにキャンバス作品やエディション・プリントを制作するようになっていったのが2000年前後のことだった。

そんな中、一つの大きな転機となったのが、ブラーが03年のアルバム『THINK TANK』のアートワークに、バンクシーの作品を起用したからなのは間違いない。この作品は、アルバムの発表に併せてロンドンだけでなくイギリス中の駅や街中の壁にポスターとして貼られ、バンクシーは一躍話題のアーティストになっていった。

BanksyBlurThinkTank.jpgまたバンクシーは、並行して有名美術館に自分自身の作品をこっそり展示するパフォーマンスを繰り返し、それがテレビのニュースでアート・テロリストとして取り上げられて人々の関心を集め、知名度を高めていったことも実に戦略的だった。加えてバンクシーが賢いのは、自分の正体を隠し、表向きには本名、顔など一切を秘密にしていることだ。一説には全然イケてないルックスなので、イメージダウンを恐れて人前には出ないことにしたとの噂もあるが、真相は分からない。ただ正体を明かしていないことが逆に人々の好奇心を刺激し、ミステリアスさが人気に拍車をかけているのは想像に難くない。

もちろん、バンクシーの人気はそんな仕掛けのせいだけでなく、実際、作品のアイデアや質、量ともに他のアーティストを遙かに凌駕しているからなのは疑いようがなく、やはり別格の天才と言わざるを得ない。その作品の本質は、シニカルなユーモアを湛えたラディカルなメッセージにあり、権威や国家権力、経済至上主義に対するアンチの姿勢や、反アメリカ、反戦といった一貫したテーマがあり、それが人気の秘密でもある。

そしてもう一つ重要なのは、それだけメッセージ性の強い作品にも関わらず、見た目は実にポップで、若いセンスを持っている人なら部屋に飾りたいと思う作品が多いことだ。その作品レヴェルはグラフィティの世界を超え、21世紀のポップ・アート、コンテンポラリー・アートとしての評価を確立するに違いないと思わせる何かが彼の作品にはある。

80年代にニューヨークのヒップホップ・カルチャーからキース・ヘリングというアーティストがスターになったように、90年代のブリストルのヒップホップ、トリップホップ・カルチャーから出てきたバンクシーは、英アーバン・アートを代表するアーティストとして語り継がれていくことは間違いない。

それにしても、02年秋にエディション・プリントでデビューしてから、僅か3年でサザビーズ・オークション・デビューしたのもギネス級のスピード出世記録なら、5年少々でキャンバス一点が1億円を超える金額となったのアーティストも史上初だろう。しかも多くの作品がステンシル・スプレーで、ステンシルを切る時間を別にすれば、30秒ほどで出来上がる作品に何百万、何千万という値段が付くのだから、アートの世界は面白い。

恐らく、バブルも弾け資源もなければ車産業も斜陽のイギリスは、国を挙げてアーバン・アートというソフトで一儲け企んだとしても不思議はない。まだどうなるか分からないが、2012年のロンドン・オリンピックのポスターにバンクシーの作品が使われたとしても僕は驚かないし、今、アーバン/グラフィティ・アートのフェスティバルに国が資金援助を惜しまないのも、そういった国家戦略があるからではないかと勘ぐりたくなる。

60年代にはビートルズを筆頭とするポップ・ミュージックで外貨を稼いだイギリスのこと、さてアーバン・アートという輸出品でどこまで旋風を巻き起こせるか、全てはここ1~2年、イギリスのアーティストがアメリカでどれだけ評価されるかにかかっている。

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保科好宏
(ロック評論家/コーディネイター)
長野県須坂市出身。著書に『ロック人名辞典』(共著/音楽之友社)『ザ・フー・ファイル』(監修/シンコー・ミュージック)などがある。趣味はロックと現代アート。
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