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2010.01.22UP

#114 前園直樹「ビートルズの初期の音は〈説得力〉のかたまりだと思う」

●〈赤盤〉が初めて買ったアナログ盤だった

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――最初に聴いたビートルズって憶えてます?

たぶん、親父が風呂場とかで唄っていた"Yesterday"ですね。うちの親父は演歌が好きで、NHKの〈のど自慢〉に出たりしてたんですよ。だから、親父の"Yesterday"には、すごくヴィブラートがかかってました(笑)。ちゃんと聴いたのは高校一年の頃かな。渋谷系ブームの頃で、フリッパーズ・ギターとか小沢健二さんとか、そういった人たちのルーツ的なものとして60年代の音楽を探っていくうちにビートルズに辿り着いたんです。

――渋谷系の時代、ビートルズを一緒に聴く仲間はいました?

実家は鹿児島の片田舎なんですけど、音楽のことを話せる友人が全然いなくて。J-POPは流行ってましたけど小室サウンド全盛期ですからね。そんななかで、クラスの違う大工君っていう友人だけが音楽の話ができたんです。彼からフリッパーズを借りて、僕からはピチカート(・ファイヴ)を貸したりしてたんですよ。そんななかで大工君がビートルズのCDを10枚貸してくれた。たぶん書店なんかで廉価で売ってたようなヤツだったんだと思います。ジャケがフリー素材の風景写真みたいで(笑)、それが印象に残ってます。いま思えばヘンなテイクが入ってたり、英語じゃない歌詞だったり。それを全部テープにダビングでして、90年代の音楽と並列で聴いてました。

――そういう廉価CDでもビートルズの面白さは伝わってきました?

そうですね。そのCDに入っている"I Want To Hold Your Hand(抱きしめたい)"を初めて聴いた時、最初の何小節かくらいでもう泣いちゃって。その当時、ビートルズの『Anthology 1』が出たんですよ。その映像版も話題になって、TVでも放映されたんです。95年の大晦日、紅白の裏番組だったんですけど、アナウンサーの小宮悦子さんから簡単な前フリがあった後、本編が流れて。で、その本編のなかで"In My Life"が流れたんですけど、それにいちばん感動して。イントロのギターの微妙な揺らぎが、自分の不安だらけの人生にシンクロしてしまったみたいで、うわ、止めてくれ! でも......みたいな(笑)。それで〈赤盤〉を買ったんです。ちょうどアナログ盤に興味を持ち始めた頃で、お店に行ったら英国盤の新品が売っていてそれを買ったんです。ちなみに、それが初めて買ったアナログ盤なんですけど。

――それで初めて正規の音源で聴かれたわけですね。いかがでした?

もう一回泣く、みたいな感じでした(笑)。とくに"In My Life"の間奏、あのハープシコードみたいになっているピアノ・ソロにすごく惹かれて弾けるようになりたかった。でも、あれがどういうふうに録られているのか、誰が弾いているのかもまったく知らなくて。どうしたら、こんなに早く弾けるんだろうって思いながらピアノで練習してました。


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・"In My Life"の楽譜
「高校の頃、学校の図書館でビートルズの古い楽譜を見つけたんですよ。"Help"とか若者に人気のある曲の楽譜はなくなってたんですけど、"In My Life"は残ってて。この譜面にはジョージ・マーティンが弾いたあの有名なソロ・パートもしっかり記譜されていて、完璧に弾けるようになりたくて、家のピアノで毎日練習してました。彼も弾けなくて半分のスピードで録った、という事実はつゆ知らず(笑)。後にそれを知った時は、思わずコケましたよ(笑)」。


●ビートルズのアルバムは、それぞれ4枚ずつくらい持っている

――大学に入ってからもビートルズは聴いてました?

大学に入ると病的にレコードを買い始めたんです。学校にはほとんどいかず、1日平均5枚は買って聴いてました。それに音楽の話ができる友人も増えたし、クラブに行くと自分より10も20も年上の先輩とも知り合うようになって。そんななかで、「どうやったら、そんなサウンドになるのか」というより、「どういうサウンドが自分にとって面白いものなのか」が見えてきたんです。自分の好みが明確になってきた。その時期にビートルズの中期以降のもの、『Revolver』とか『The Beatles(ホワイト・アルバム)』が面白くなってきて。高校の時に聴いていたビートルズとは別のビートルズにもう一回出逢ったっていう感じでしたね。

――ビートルズとの付き合いが少し変わってきたわけですね。

そうですね。例えば、友人とお酒を飲みながら話をして、いろんなレコードを聴いたあげく、最終的にビートルズをかけると「やっぱりビートルズっていいね」みたいになる。そういう良い環境でしたね。クラブで"Magical Mystery Tour"がかかる瞬間もあったし。やっぱり、あの曲がかかると違いましたね。出だしのホーン・セクションの1音だけで空気が変わりました。

――レコード屋でビートルズとの良い出会いって何かありました?

ビートルズのレコードって、〈赤盤〉以外はレコード屋では買ったことないかもしれないです。全部、リサイクル・ショップとかで手に入れてますね。当時はレコードの買い過ぎでほんとにお金がなくて、それでいて、もっとたくさんのレコードを買いたかったんですよ。だから、リサイクル・ショップで全タイトル300円で買い揃えたこともありますね。ビートルズのアルバムは、それぞれ4枚ずつくらい持ってるんですよ。急に聴きたくなった時、部屋の中を捜し回るのが面倒だったりして、いろんなところで見つけて買ってくるから。いっぽうで実は今、持ってない人も多いと思うので、お土産にもイイと思いますし(笑)。

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・2枚のレコード
「いま、〈LOVE SHOP RECORD〉っていう和モノ専門のレコード屋もやってるんですけど、日本で制作された、いわば〈ビートルズ・ソングブック・軽音楽編〉的なレコードを少し見繕って持ってきてみました。『バカラックがビートルズに逢った時』(写真左)は筒美京平さんが編曲を手掛けたアルバムで、日本のイージーリスニング的解釈のなかでは最高峰だと思います。『栄光のビートルズ・ベスト・24』(写真右)は東芝で越路吹雪さんの担当ディレクターだった渋谷森久さんが〈モーリー・グレー〉名義で関わった作品のなかの一枚です。いろいろレコードを買っていくなかでこういうものにも出会って、誤解を恐れずに言えば広く浅くビートルズの音楽に触れてきた気がしますね」。


●最近ではまた〈赤盤〉時代が面白い

――前園さんは新作『火をつける。前園直樹グループ第一集』で邦楽アーティストのカヴァーをされていますが、ビートルズのカヴァーをするなら、やってみたい曲ってありますか?

うーん、これまでカヴァーをしたいと思ったことは一度もなくて、きっとこれからもないだろうし......。作曲家あるいは編曲家として、僕はポール・マッカートニーが好きなんです。だからポールの音楽が放っているオーラみたいなものは常に頭の中に憧れとしてあるんですけど、曲自体をコピーするっていうのは、ポール・モデルのヘフナーのベースを買うとか、そういうことと同じなんですよね。そういうのって興味なくて。ポールを意識した曲はあるんですけどね。結果が〈ぽい〉かどうかは疑問ですけど、03年に出した『ほほえみがとまらない』っていうミニ・アルバムに入っている"the Sun Blues"っていう曲なんですけど。

――どういう風に意識されたんですか?

具体的にあの曲っていう風にはやらないんですけど、好きな作曲家やアーティスト、レコードを思い浮かべて作曲することがあって。その時は、ポールとジェイムス・テイラーとエドゥ・ロボを頭の中で放流させて、3人が一緒にやってるみたいな感じってどんなのだろうって。言ってみれば研究報告みたいなものですね、20代前半のビートルズ研究報告。あ、でも01年の『くらしのたより』というデビュー・アルバムでは、もう少し具体的に、"Getting Better"のイントロのギターのカッティングを真似てみたこともありました。

――なるほど。では、ちょっと大きな質問なんですけど、前園さんにとってビートルズってどんな存在ですか?

うーん、難しいなあ。忘れちゃいけない、っていう感じはあるんですよね。いまでもビートルズのカタログっていろいろ出るじゃないですか? リマスターとか。そういうのって見向きもしないんですけど、でも、初めて聴いたときからずっと頭の中に残っている音やメロディーは忘れちゃいけないなと。

――いまでも折に触れて聴くことがある?

あります。最近ではまた〈赤盤〉時代が面白くて。それって、08年の秋に生まれて初めてバンドを組んだことが大きいかもしれないですね。同じバンドマンとして(笑)、初めてビートルズに触れている。いま、バンドで曲をアレンジしていく時に小西(康陽)さんといろんな話をしていて、そこでよくでてくる〈説得力〉っていう言葉があるんです。「ここのコードはこっちにしたほうが説得力がある」とか「この間奏は16小節ではなくて8小節のほうが説得力がある」とか。その曲にあう音の響きとか、サイズとか、そういうことを指す言葉が〈説得力〉だと思うんですけど、ビートルズの特に初期の音は説得力のかたまりだと思うんですよ。だから〈説得力〉という言葉を耳にするようになったあたりから〈赤盤〉時代に戻ってくるようになりましたね。

――確かにビートルズの曲は、どの音もピタッとはまってますよね。

そうですね。あと、声の説得力っていうのも感じてて。歌が始まったとたんに「始まった!」と思えるというか、そう思わせる説得力に憧れる。歌うべき声というか、自分もそういったものを追い求めていきたいなと思ってます。

取材・文/村尾泰郎



前園直樹(まえぞの なおき)
シンガー・ソングライター/レコード店・店主

20100122_maezononaoki_jacket.jpg1979年生まれ。2001年、アルバム『くらしのたより』でデビュー。2006年には、国産ポピュラー音楽専門のオンライン・レコード・ショップ〈LOVE SHOP RECORD〉を開店。2008年には、小西康陽(ピアノ)/羽立光孝(ベース)と共に、日本に残された〈うた〉をカヴァーするバンド〈前園直樹グループ〉を結成、同バンドではヴォーカルを担当している。バンドとしては、2009年にアルバム『火をつける。 前園直樹グループ第一集。』をリリース、そして来る2月10日(水曜・祝日前)には、下北沢モナ・レコードにおいて、初のオールナイト・イヴェント〈真夜中の前園直樹グループ。〉を開催する。

なお、ソロ活動も継続しており、1月25日(月)には下北沢COLORED JAMにおけるライヴが決定している。その他、主に音楽関連の執筆業、アーカイヴ業もおこなっており、1月23日(土)には、アンソロジスト・濱田高志による公開講座〈ヒットメーカーが語る作品誕生秘話〉へのアシスタントとしての参加も決定。さらに2010年春には、1970年以前に制作された国産レコードのジャケットを紹介するヴィジュアル本の刊行を予定している。タイトル未定、出版はP-Vine Booksで、山口佳宏/鈴木啓之との共著。同書では執筆に加え、デザインも担当する。

前園直樹グループ オフィシャルサイト http://maezono-group.com/
LOVE SHOP RECORD http://loveshop-record.com/

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