2009.04.02UP
●「抱きしめたい」「レット・イット・ビー」をきっかけに曲作り

――確か、渡辺くんはビートルズのせいでワタナベイビーになったんですよね?
そうなんですよ。80年、ポールが成田でつかまったとき。それまでは知らなかった。名前は知ってたんだけど、クールファイブみたいな大人が好むコーラス・グループみたいなもんかと思ってた(笑)。でもワイドショーで見た画像で女の子がおいおい泣いてるんですよ。ポールを返して! って。当時僕は10歳か11 歳くらいで、37~8歳の人なんておじいさんなのに、なんでこんなに"たのきんトリオ"以上にキャーキャー言われてるんだろう、って不思議だったんですね。でも釈放されて帰るところを見たらかっこいいじゃないですか。当時の日本の一般庶民と一緒に映ると、別の星の生き物みたいにかっこよかった。で、なんなんだこの人は、と。当然ビートルズのボーカルだと思ったんです。前川清的な(笑)、ああいうフロントの人だと思った。6年生になっても、なんだったんだろうあれは、と引っかかりつつ。そしたら暮れにジョン・レノンが死んでもっと大騒ぎになって、その人もビートルズだと。どういうグループなんだと。新聞とかを見ると、ビートルズを率いたリーダーだって書いてある。僕の勝手な解釈はポールがリーダーでスターなはずだから、どうなってんだ? と。それから突き止め始めてどこかで聴く機会を探していたら父の車にあったんですよ、赤盤が。それをこっそり借りて頭から聴いたんですね。「ラヴ・ミー・ドゥ」「プリーズ・プリーズ・ミー」「フロム・ミー・トゥ・ユー」「シー・ラヴズ・ユー」「抱きしめたい」、この5曲の間に変わっちゃった、人間が(笑)。
――そこからワタナベイビーになった。
なっちゃいました。父はどっちかっていうとビートルズは嫌いな世代なんだけど、ただ「エイト・デイズ・ア・ウィーク」と「ミッシェル」は洒落てるぞ、っていう理由で持ってたらしくて。僕はそれまで音楽は意図的に聴いてなかったし、そこで変化が起こっても端からは何事もない風にしてました。自分だけ"俺は違うんだぜ"って思ってた。赤盤を通して聴くと2時間かかるじゃないですか。それを1日に数回繰り返す。学校以外は全部赤盤。でも青盤には手を出せなかった。ポップ音楽に金を使うのを家族に対して恥じているような、そういう時代背景だったんで(笑)。僕らくらいの世代の親と子っていうのはそうなんですよ。流行歌にうつつを抜かしてるんじゃねぇ、っていう親父と怒られる息子っていう。特に僕はいろいろな角度から屈折してたんで、自意識過剰要素っていうか、流行ってるアリスとかなら買いやすいけど、ビートルズを買ってたらおかしいと思われるんじゃないか、っていう子供ならではのものがあって。小6の3学期が自分の中でそれにどう折り合いをつけるかっていう時期だった。ビートルズが好きだって言っちゃうか、前みたいなプロレス好きの子供のまま中学に行くか葛藤してた。でも中学に入って制服を着るようになるとますますその気になるじゃないですか。で、ギターを買ってもらっちゃったんですよ。
――もうビートルズ好きを公言しようと決めて。
ええ。その前の3ヶ月でいろんなことを解決して。でもガット・ギターでした。父もクロード・チアリみたいな方向に行けばいいと思ってたんじゃないですかね。で『ビートルズ80』っていう楽譜集を買って。そしたら「抱きしめたい」と「レット・イット・ビー」が同じコード進行だったんですよ。 C→G→Am→E...ていう。あの2曲がこれで作れるのか、ってわかったらたいていどの曲も弾けた。これを覚えれば自分で曲が作れる。もうそこからは技術志向はあきらめたというか後回しにして、13歳から曲作りを始めました。
――それはラブソング?
ラブソングはまだなかったですね。まず友達にウケる、笑えるっていうのがいちばんで。中3で書いた曲はホフディランでレコーディングしました。「キミのカオ」と「文通しよう」。「レット・イット・ビー」進行ともうひとつ「イエスタデイ」進行っていうのがあるんですよ。FからEm7→A7→Dm。チューリップの「ぼくがつくった愛のうた」の♪ふたりの愛があるかぎり~も「イエスタデイ」進行。中学に入ってからいよいよワルツ堂っていう近所のレコード屋に通うようになるんですけど、今みたいに売り方が親切じゃなかったから、オリジナル盤がどうかの見分け方がわからなかった。適当に買ってくうちにどんどん曲がだぶっていって(笑)。今はだぶらないように調整されてるじゃないですか。でも当時はひどくて、高3までの6年間で何十枚も買うはめになりましたね。
――ディスコグラフィー本とかで調べるという手もあるのに。
本は高校に入ってから入手しました。でもシングルのB面でアルバム未収録曲のリストの文献が見当たらなかったんですよ、図書館にも。例えば「サンキュー・ガール」とかはFM東京の土曜にやってた番組でかかった。でも「アイル・ゲット・ユー」はかからない。苦労しましたね。「ユー・ノウ・マイ・ネーム」とかね。
――CDで『パスト・マスターズ』が出るまでは大変だったわけですね。
いやもう、あれが出たときの悔しさと言ったら(笑)。
――でもその前に全曲集めた?
集めた。聴き逃してる曲があるのがもうたまらなくて。11曲持ってても1曲持ってない曲が入ってるアルバムも買ってたりしましたね。でも夢がありましたよね。今みたいにパソコンでポチッて買えるなら全然ワクワクしないですもんね。

――バンドはやってなかったの?
やってなかったですね。そこがまたいろいろ、美学と一致しない点が。練馬の大泉というところで育って、15歳で横浜に引っ越したんで、同じ街の同級生がバンドを組んで世界制覇するっていう夢が崩れたんですよ(笑)。じゃぁいいや、ひとりで好きに多重録音しよう、っていう方向に。本当は自然に大泉の街から抜きん出てきた連中とすごい音を鳴らすんだ、って思ってたんですけどね。だから初めて組んだバンドがホフディラン。
●ヒップホップと融合したジョンの曲がかっこいい
――ビートルズのどこにそんなに惹かれたんでしょう。
どこだろうなぁ。わかんない。図書館にあった昔の写真集で、何万人もの客に向かって演奏しているところをステージの後ろから撮った写真を見てびっくり。ポールが左利きだから扇の形になってる。扇の中心にジョージ、リンゴがいる。なんと完成されてるんだろう、と。見た目もかっこいいし、身長も体型も似た感じで、よくできてる。写真だけで4人のキャラクターとかもわかったしね。昔の映像とか見てると、おばあちゃんが「不景気で停滞していたイギリス経済に活気を与えてくれた、本当にいい子たちよ」って言ってるんだけど、まさにそうだと思うんですよ。今の日本でビートルズに取って代われるのは石川遼か浅田真央くらいかもしれない(笑)。あのふたりよりもっとすごいんでしょうけど、若くて将来性があってみんながワクワクする、そういう存在だと思います。国だけじゃなくて、個人レベルでも同じ現象を起こすと思うんですよ。聴いてると愉快になって活気が出て、こいつらの映像見てるだけで楽しいんだよ、っていう。年とるごとにどんどん楽しくなる。
ポールの初来日のときは前の月にストーンズも来たから、2ヶ月で20万円くらい使いましたもん。最後だと思って、ほとんど毎日行ったから。事件でしたからね。『ロックショウ』で演奏された曲以外は全部事件。ジョージも見ました、横浜と東京で。「アイ・ウォント・トゥ・テル・ユー」のソロにびっくりした。遠くで聴いてもジョージの音だったから。リンゴは武道館で当日券で見たけど、2つ隣の席にブルーハーツの梶原さんとジュンスカの小林さん、村上ポンタさんもいて、ドラマーがたくさん(笑)。
――あのバンドでのリンゴはあまりドラムを叩かないのに。
なんかマチャアキみたいですよね(笑)。芸能的な司会の人。
――ロンドンに行ったことは?
ないです。行ってみたいはみたいけど、コレクターとか足跡を追うとかってタイプでもないんで。でもニューヨークはある。ダコタでちゃんと写真も撮っちゃったりしたけど、でも平日の昼間に行くと案外普通のところでしたね。やっぱりジョンがいちばん好きなんですよ。僕はジョンと同じ10月生まれで、今(09年) 40歳。ジョンとくらべてどうとか若い頃は思ってたんですけど、38~9歳くらいから考えてもしょうがない、この人と自分は別なんだ、と思うしかなくなってますね。声もソロ・アルバムもジョンがいちばん好き。『ジョンの魂』『イマジン』『サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ』の3枚は特に。『サムタイム~』は"え~!?"って言われることが多いけど、「血まみれの日曜日」とかヒップホップと歌の融合ですよ。「ギヴ・ピース・ア・チャンス」をもっとスリリングにしたようで、最近の音楽みたいにかっこいい。ロックとしてかっこいいフォーマットの曲が多いんです。
取材・文/佐々木美夏
ワタナベイビー
ミュージシャン
1968 年10月17日生まれ。東京都練馬区出身。87年ホフディラン結成(バンド名の由来は、当初のメンバーに保父がいたから)。94年に小宮山雄飛との二人組になり、96年シングル「スマイル」でデビュー。ポップなソングライティングと楽しいライブ・パフォーマンスで人気を博し武道館公演も果たすが、02年活動休止。メジャー・デビュー10周年の06年9月に復活。09年4月3日にはニュー・アルバム『ブランニューピース』をリリース。5月9日名古屋、10日大阪、17日東京にて、ワンマンツアー『95%のお客さんがまた来たい!と言っているツアー』を開催。ワタナベイビーの声は"花王ふんわりニュービーズ ""メリアル・フロントライン・プラス"(犬猫のノミとり薬)のCMでも聴くことができる。
ホフディラン ニュースブログ http://www.hoff.jp/
ワタナベイビー オフィシャルブログ『Net it be』 http://ameblo.jp/watanababy-blog
