「ジャズの魅力は、そうですねえ…。例えば満点を100としましょう。ポピュラーソングなら、最初に聴いた時点で、80あるいは90の内容を聴き取ることができると思うんです。だけどもジャズの場合、1回目は20あるいは30ぐらいしか、感じ取れないことが多いんですね。それが、聴き込んでいるうちに35、40、45…、という風に上がっていく。そしてプレーヤーの音色の違い、例えば同じアルトサックスでもプレーヤーによって音や歌い回しのニュアンスが違うんですが、それがわかってくると、もっともっと面白くなってくる。そんな音楽ですよ、ジャズは」
四谷「いーぐる」は、ジャズ評論家としても名高い後藤雅洋氏が店主を務めるジャズ喫茶である。
「学生時代に親父がやっていたバーを引き継いで始めてから40年がたちました。僕が店を始めた頃は都内に100店ほどのジャズ喫茶があったんですけどね、今では10分の1ぐらいの数しか残ってないんじゃないかなあ」
ジャズはこの頃ではラーメン屋だとか焼肉屋でもBGMでかかっているのに、ジャズを聴くという意気込みで聴いている人はかえって少なくなっているんじゃないですか、それとは別に演奏を楽しむ人が物凄く増えているように思うんですが、その辺りはどうなんでしょう——。そんな質問に、
「確かに聴く人は少なくなりましたよね。でも僕が店を始めた60年代という時代は、ジャズという音楽が時代を反映していたというのかな、なにしろ刺激的だったんです、特に学生にはね。ところがどういうわけだか、学生というのは就職するとジャズ、聴かなくなっちゃうんだなあ(笑)。ジャズのウマさを味わい尽くす前に止めちゃうんですよ、もったいない。…ジャズ喫茶をやる上で、僕は、どうすればジャズのウマさを堪能してもらえるか、常に考えているんですね。選曲、音の演出というのかな、料理人が旬の素材をどう料理して、どういう順番で出して満足してもらえるかを常に考えているように、ね」
お客さんの中にはクラブのDJもいて、選曲の妙を勉強していたりするという。
取材中、話は黒人ブルース、日本のジャズ、ロシアのジャズ、ヨーロッパ、戦前の日本のジャズシーンなど多岐に及び、それはさながらジャズ講義。もっとも“生徒”が不勉強でさわりにも至らなかったのだが…。
取材・文/森澤郁夫 写真/横田敦史
1.店内企画もあり「ジャズ喫茶で学ぶジャズ入門——“名盤”でたどるジャズ史——」は1月19日から3ヵ月全4回。電話申し込みは03-3344-2041(朝日カルチャーセンター・事業部)まで。
2.JBLの大型スピーカー、アキュフェーズのコントロールアンプ、マーク・レビンソンのパワーアンプで鳴らす。ディスクはCD、レコード合わせて8000枚あるという。リクエストももちろん可。
3.ほうれん草とベーコンのキッシュ500円。キリンラガー700円。
4.店主の後藤雅洋氏。ジャズファンにはつとに知られるジャズ評論家である。
5.12月に発売されたばかりの『ジャズ喫茶四谷「いーぐる」の100枚』(集英社新書 756円)。'67年から現在まで「いーぐる」で流れた曲を通じて日本のジャズを振り返る。
いーぐる
東京都新宿区四谷1—8 ホリナカビル地下1F
03-3357-9857
平日11:50~23:50、土曜14:00~23:50
祝日
コーヒー600円、パスタセット780円~のサービスタイムあり11:50~14:00


