
選と文/編集部
アトランティック・レコードの魅力は、ゴスペルやブルースからR&B、ソウル、ロック、そして前衛ジャズにいたるまで、その取り扱う範囲の広さにある。広大なフィールドの中から、ひときわ光彩を放つ名作や重要作品、そして人気作品をここに紹介しよう。
Cream
Disraeli Gears
クリーム
『カラフル・クリーム』
1967 Rock
英国のロックシーン、なかでもエリック・クラプトンに注目していたアーメット・アーティガンは、クリームが結成されるとすぐに契約を交わし、配給権を得る。これを契機にアトランティックはアメリカのレコード会社でありながら、英国ロックの良き理解者としての存在感を高めていく。アトランティックの名プロデューサー、トム・ダウドを迎えた本作で、クリームはブルース・ロックの王者に登りつめた。
Clarence Carter
This is Clarence Carter
クラレンス・カーター
『ディス・イズ・クラレンス・カーター』
1968 R&B/Soul
アラバマ州出身の全盲のシンガー/ギタリスト、クラレンス・カーターは、いかつくてコテコテな印象のジャケット写真から受けるイメージとは裏腹に、実に日本人の心の琴線にふれる“泣き”を聞かせてくれる。サザン・ソウルの聖地、マッスル・ショールズで録音された本作では、「スリップ・アウェイ」などのヒット曲のほか、ディープでエモーショナルなカーターの歌声をたっぷりと聞かせてくれる。
Keith Jarrett
Somewhere Before
キース・ジャレット
『サムホエア・ビフォー』
1969 Jazz
冒頭のボブ・ディランのカヴァー、「マイ・バック・ペイジズ」で、ジャレットは当時の若いファンの心を一挙にとらえてしまった。チャールス・ロイド楽団時代からゴスペルへのフォーキーなアプローチで異彩を放っていたジャレットだが、この初リーダー作から2年後には、ワールドミュージックまでも織り込んだ壮大なコンセプトをソロピアノで表現するという、前人未踏の領域に踏み出すことになる。
Crosby,Stills & Nash
Crosby,Stills & Nash
クロスビー、スティルス&ナッシュ
クロスビー、スティルス&ナッシュ
1969 Rock
「革命的な作品」というのはそうたびたび生まれるものではないが、アコースティック・ギターに3声コーラスという、いってみればピーター、ポール&マリー的な構成から、どうしてこのようなまったく新しい表現がなしえたのか。そこには、単に音楽的見地からだけでは解明できないものがあるように思える。あえていえば、60年代ロックのスピリッツが、本作を産み出したということだろうか。
Boz Scaggs
Boz Scaggs
ボズ・スキャッグス
『ボス・スキャッグス』
1969 Rock
マッスル・ショールズのスタジオギタリストとして働いていた関係上、アトランティックにはデュアン・オールマンのセッションが数多く残されているが、白眉といえるのが、このボズ・スキャッグスのソロ・デビュー作。ボズは中身の濃いルーツ・ミュージックを展開しているが、聞き物は、12分を超える「ローン・ミー・ア・ダイム」。徐々に熱気を帯びてドラマティックになっていくデュアンのソロが圧巻。
Blind Faith
Blind Faith
ブラインド・フェイス
『スーパー・ジャイアンツ』
1969 Rock
スーパー・グループの真打ちとして登場したのが、元クリームのエリック・クラプトンとジンジャー・べイカー、元トラフィックのスティーヴ・ウィンウッド、元ファミリーのリック・グレッチからなるブラインド・フェイス。本作のみでバンド活動は頓挫するが、落ち着いた雰囲気の渋い名曲がそろっており、誰もが血気盛んだった70年当時よりも、いまの時代の気分によりマッチするのではと思わせる名作。
King Crimson
In The Court Of the Crimson King
キング・クリムゾン
『クリムゾン・キングの宮殿』
1969 Rock
レッド・ツェッペリン、イエスに続いて、アトランティックはキング・クリムゾンとも契約を交わすことになるが、本作の発売に合わせて全米ツアーを仕掛けるなどの巧妙なマーケット戦略により、プログレという、本来アメリカでは受け入れられにくいジャンルを見事にヒットさせた。冒頭の「21世紀のスキゾッツオイド・マン」から最後のタイトル曲まで、壮大なスケールで描かれたロック叙事詩は唯一無比。
Crosby,Stills,Nash&Young
Déjà vu
クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング
『デジャヴ』
1970 Rock
元バッファロースプリングフィールドのスティルスとヤング、元バーズのクロスビー、元ホリーズのナッシュからなるスーパーグループ、CSN&Yの代表作。4人の個性のぶつかり合いから生まれる緊張感は、ヴェトナム反戦運動がピークに達していた社会状況と無縁ではなく、それゆえの気負いや幻想もみられるが、それらをすべて美しいものへと変えてしまう説得力がこの音楽のなかにある。
Drek & The Dominos
Layla And The Other Assorted
デレク・アンド・ドミノス
『いとしのレイラ』
1970 Rock
1970年8月、マイアミで行われたオールマン・ブラザーズ・バンドのコンサートにエリック・クラプトンが姿を現したことから、デュアン・オールマンとクラプトンの親交が始まる。スタジオでレコーディングを始めた2人は、トム・ダウドのプロデュースのもと、クラプトンが求めてやまなかったアメリカ南部のサウンドを実現する。「レイラ」のイントロのギター・リフはデュアンのアイデアによるものといわれる。
Roland Kirk
Volunteered Slavery
ローランド・カーク
『ヴォランティアード・スレイヴリー』
1970 Jazz
バート・バカラックの「小さな願い」、スティーヴィー・ワンダーの「マイ・シェリー・アモール」、ビートルズの「へイ・ジュード」、そしてジョン・コルトレーンの「至上の愛」など、60年代のヒットチューンをDJ的感覚で次々とつなぎあわせて音のコラージュのように作り上げたその世界は、まさにブラック・ワンダーランド。69年のスタジオ録音と68年のライヴ音源からなる鬼才ローランド・カークの人気作。
The Allman Brothers Band
At Filmore East
オールマンブラザーズバンド
『フィルモア・イースト・ライヴ』
1971 Rock
1971年3月12日と13日、ニューヨーク・フィルモア・イーストで行なわれた計4回のステージからまとめられた傑作ライブ・アルバム。スライド・ギターの天才としてデュアンの名を知らしめた冒頭の「ステイツボロ・ブルース」からラストまで、卓越した演奏力と綿密に計算されたアレンジで一気に聴かせる。当日、コンサートが終わったときにはすでにフィルモアには朝の光が差していたという。
Delaney&Bonnie&Friends
Motel Shot
デラニー&ボニー&フレンズ
『モーテル・ショット』
1971 Rock
ツアーの宿泊先でジャムセッションを行なうことを「モーテル・ショット」といい、アコースティックギターやタンバリン、ピアノなどのアンプラクドな楽器によって行なわれたという。本作ではグラム・パーソンズ、デュアン・オールマン、デイブ・メイソン、レオン・ラッセルなどの豪華ゲストによる、ゴスペルやブルースのジャムが収録されている。いかにもアメリカらしい、そしてアトランティックらしい作品。
McDonald & Giles
McDonald & Giles
マクドナルド&ジャイルス
『マクドナルド&ジャイルス』
1971 Rock
キング・クリムゾンの初期メンバー、イアン・マクドナルドとマイケル・ジャイルスが、同バンド脱退後に共同名義で発表したのが本作。“レイドバックしたプログレ”とでも呼べばいいのだろうか、肩の力の抜けた、素朴で牧歌的な明るいサウンドが全編に展開されている。ただ、2人の演奏技術は高く、名人の域。イアン・マクドナルドはこののち、フォリナーにオリジナルメンバーとして加わっている。
Led Zeppelin
Led ZeppelinIV
レッド・ツェッペリン
『レッド・ツェッペリンIV』
1971 Rock
タイトルのみならずバンドのクレジットもなし、という思い切ったジャケットデザインは宣伝担当泣かせのコンセプトだったが、結果的にこれが大きな話題を提供することとなり、アーティガンの賭けは大成功だった。「ブラック・ドック」「天国への階段」「ロックンロール」「ミスティ・マウンテン・ホップ」など、ライヴでの定番レパートリーが多く収録された、ツェッペリン入門に最適のアルバム。
Yes
Fragile
イエス
『こわれもの』
1971 Rock
イエスをスターダムに押しあげた代表作。スパニッシュ・ギターを連想させるイントロから始まる冒頭の「ラウンドアバウト」は、このバンドの演奏力の高さと幅広い音楽性を示しており、本作から加わったキーボードのリック・ウェイクマンのクラシック音楽への志向性の強さが、このバンドとぴたりとマッチしたことをうかわがせる。イラストのロジャー・ディーンは、本作で一躍脚光を浴びることに。
Emerson,Lake & Palmer
Pictures At An Exhibition
エマーソン、レイク&パーマー
『展覧会の絵』
1971 Rock
ムソグルスキーの組曲をロック的に解釈するというアプローチで人気を博したアルバム。キース・エマーソンのムーグシンセサイザー、グレッグ・レイクのヴォーカル&ベース、ギター、カール・パーマーのドラム、この3人のパフォーマンスが絡むさまは、コンサートというよりもまるで3人の役者によるミュージカルのような演劇性に富んでいる。すべてライブ音源で構成されている点もユニーク。
Eric Justin Kaz
If You're Lonely
エリック・ジャスティン・カズ
『イフ・ユアー・ロンリー』
1972 Rock
発表当時は大きな話題にもならず、一部のファンだけに知られる“隠れた名盤”だったが、9年前に初CD化されて以来、新しい世代にも聴かれる人気盤となった。本作に収録され、ボニー・レイットのカヴァーがヒットした「クライ・ライク・ア・レインストーム」が代表作だが、ヴェトナム戦争をテーマに歌った冒頭の「クルーエル・ウィンド」をはじめ、類まれな優しさに満ち溢れた歌が揃っている。
Stephen Stills
Manassas
スティーブン・スティルス
『マナサス』
1972 Rock
70年代アメリカン・ロックを語るうえで、その音作りの原点となったといえるアルバム。ブルース、ゴスペル、R&B、カントリー、フォーク、ラテンと、広範囲に及ぶ素材をロックンロールというナイフで串刺しにして見せたスティルスの力技には、ある種の爽快感さえともなう。のちのサウザー・ヒルマン・フューレイ・バンドにつながるクリス・ヒルマン提供の作品、サウンドも素晴らしい。
Donny Hathaway
Live
ダニー・ハザウェイ
『ライヴ』
1972 Soul
オープンニグのマーヴィン・ゲイのカヴァー、「ホワッツ・ゴーイン・オン」から、聴く者をぐいぐいとひきつけ、まるでニューヨーク、ゲットーのラウイブハウスにいるかのような錯覚をもたらせてくれる臨場感にあふれた傑作ライブ盤。ジョン・レノンの「ジュラス・ガイ」もカヴァーするなど、幅広い音楽性はそれまでのソウルを越えた「ニューソウル」という言葉がふさわしい斬新な一面もそなえている。
The Rolling Stones
Exile On Main St.
ザ・ローリングストーンズ
『メイン・ストリートのならず者』
1972 Rock
1971年、アトランティックは念願だったローリングストーンズの配給権を獲得し、名盤『スティッキー・フィンガーズ』を世に出す。アトランティックらしいルーツ・ミュージックの匂いの漂う傑作だが、その方向性の集大成とでもいうべきものが第2弾の本作。デビュー以来、不良少年路線を突っ走ってきたストーンズだが、さらなるワル―ならず者路線へのスタイル・チェンジを本作で決定づけた。
Dr.John
In The Right Place
ドクター・ジョン
『イン・ザ・ライト・プレイス』
1973 Rock
『ガンボ』(71年)で、ニューオリンズの古き良き香りの漂うR&Bを復活させたドクター・ジョンだが、彼の持てる才能を余すところなく花開かせたのはこのアルバム。“セカンドライン”と呼ばれるニューオリンズ・ファンクビートを全面に打ち出した先進性あふれるサウンドは、時代よりも一歩先に進みすぎた感じすらある。映画『ラストワルツ』で脚光を浴びた「サッチ・ア・ナイト」を収録。
Bad Company
Bad Company
バッド・カンパニー
『バッド・カンパニー』
1974 Rock
元フリーのポール・ロジャースとサイモン・カークが中心となって結成されたバッド・カンパニーは、本作収録の「キャント・ゲット・イナフ」がいきなり全米で大ヒット、アルバムも全米1位を獲得して全世界で1500万枚を売り上げる。直球勝負のサウンドがアメリカの市場にフィットし、続く第2作、第3作もミリオンセラーになるなど82年にポール・ロジャースが脱退するまで黄金時代は続いた。
Charles Mingus
At Carnegie Hall
チャールズ・ミンガス
『ミンガス・アット・カーネギー・ホール』
1974 Jazz
LP時代はA面に1曲(C・ジャムブルース)、B面に1曲(パーディド)という大胆な構成が話題となったミンガス後期の傑作ライブ。聴きどころは、ローランド・カーク、ジョージ・アダムス、ハミエット・ブルーイットなどのサックス奏者たちによるソロ。簡単なコード進行の古い曲だが、モード・ジャズやフリー・ジャズの技法を駆使して、限界ぎりぎりまで吹き鳴らした後にやってくるカタルシスが最高。
Art Ensemble Of Chicago
Fanfare For The Warriors
アート・アンサンブル・オブ・シカゴ
『戦士への讃歌』
1974 Jazz
ロスコー・ミッチェル、レスター・ボウイ、ジョセフ・ジャーマン、マラカイ・フェイヴァーズなどを擁するAECは、68年にシカゴで結成され、フリー・ジャズシーンで活動を始める。本作はAECの代表作で、コワモテのイメージとは裏腹に、ロック、R&B、ファンクなども含むアメリカのポップミュージックをパロディ化したダンサンブルな曲が多く、むしろ現代の耳には素直に楽しめる内容となっている。
Manhattan Transfer
Manhattan Transfer
マンハッタン・トランスファー
『マンハッタン・トランスファー』
1975 Rock
ランバート、ヘンドリクス&ロス以来、すたれていたジャズ・コーラスの魅力を再現したのが、男2人、女2人の混声コーラスグループ、マンハッタン・トランスファーだった。デビュー作となる本作では、ジャケ写のアートワークが象徴するようなノスタルジーなジャズナンバーと50〜60年代のアメリカンポップス的感覚を巧みにブレンドして、独自の“マントラ”ワールドを作り上げている。
Modern Jazz Quartet
The Complete Last Concert
モダン・ジャズ・カルテット
『コンプリート・ラスト・コンサート』
1975 Jazz
アトランティック一筋に約25年活動を続けたMJQの1974年11月25日のラストコンサートを収録したライブ盤。ミルト・ジャクソンのビブラフォンとジョン・ルイスのピアノを中心とする室内楽的な典雅で洗練された演奏は、アーティガンが最も好むものだった。代表曲のほとんどがこの日演奏されているが、そのいずれもがこれまでで最高の出来となるという、奇跡的なラストコンサートだった。
Blues Brothers
Original Sound Track Recording
ブルース・ブラザーズ
『ブルース・ブラザーズ』
1978 Blues/R&B/Soul
ジョン・べルーシとダン・エイクロイドの遊び心から生まれたユニット、ブルース・ブラザーズ。本作はその映画化作品サントラ盤。スティーブ・クロッパー、ドナルド・ダック・ダンに始まり、アレサ・フランクリン、ジェイムズ・ブラウン、レイ・チャールズ、そして大御所キャブ・キャロウェイまで参加することに。シャレから生まれた企画が黒人音楽大リスペクト大会にまで大きくなってしまったところが痛快。
