アーメット・アーティガン・トリビュート・コンサート 〜レッド・ツェッペリン復活祭の夜

文/保科好宏
アトランティック・レコード創業者アーメット・アーティガンを追悼する記念チャリティイベント、「アーメット・アーティガン・トリビュート・コンサート」がさる12月10日、ロンドンO2アリーナで行なわれたが、フタをあけてみると、それは“レッド・ツェッペリン復活祭”だった。

超豪華メンバーによるオープニングアクトだったが…

 ジミー・ペイジの左手小指骨折による2週間の延期を経て、19年ぶりに再結成するレッド・ツェッペリンをメインアクトにした“アーメット・アーティガン・トリビュート・コンサート”が、12月10日、遂にロンドンで開催された。会場のO2アリーナは、テムズ川沿いにある約2万人収容の多目的施設だが、敷地内にはスケートリンクやレストラン、3千人収容の別ホールもあるモダンでバブリーなお台場に似た雰囲気で、ひと昔前のロンドンからは想像も付かない今の経済好況の象徴のような新名所だ。
 その新名所に、全世界50カ国以上からチケットが当選した幸運な人々が集合したわけだが、大きな混乱がなかったのは、同会場で前日からチケット交換を始め、クレジット・カードと写真付きIDを照合の上で発行されたリストバンドとチケットの両方がなければ入場できない厳しいセキュリティの賜だろう。
 そんな事前のチェックがあったからか、入場時の手荷物検査は形だけで、持ち込もうと思えばビデオカメラでもデジタル録音機材でも何でもOKだったのには驚いたが、これも来日するたび、西新宿のブートレッグ・ビデオ/CD屋さんに出没し、ツェッペリン関係の品物を山ほど持ち帰るブートレッグ・コレクター、ジミー・ペイジの思惑だったとしたら相当に可笑しいと思いながら入場した。実際、直後からYouTubeには無数のライヴ映像がアップされたのはご存知の通りで、殆どのファンはこれを楽しんだのではないかと思う。
 それはともかく、日本で喩えるなら一階のフロア部分が広い横浜アリーナを思わす会場に午後7時前に入ると、“It Is a Great Life This Life of Music”というアーティガンの言葉がステージに大きくディスプレイされているのが目に飛び込んできた。7時を過ぎてもロビーでプログラムやTシャツを買っているファンが多いせいか、客席はまだ7割程度の入りだったが、そんな中、7時半頃にビル・ワイマンズ・リズム・キングスが登場してコンサートがスタート。そこにキース・エマーソン他、クリス・スクワイア、アラン・ホワイトのイエス組と、バッド・カンパニーのサイモン・カークによるスーパー・バンドがエマーソン・レイク&パーマーの「庶民のファンファーレ」を演奏したものの、まだ観客の反応は穏やかなもの。しかもその一曲だけでこの豪華バンドが退くと、続いてリズム・キングスをバックに、パオロ・ヌティーニ、マギー・ベルが好演したものの観客の反応は鈍く、唯一大きな歓声が湧いたのは、ポール・ロジャースがフリーの大ヒット曲「オールライト・ナウ」を歌った時だけだった。意外だったのは20人のコーラス隊を従えたフォリナーも、全米No.1ヒット曲「アイ・ウォナ・ノウ・ホワット・ラヴ・イズ」一曲しか演奏しなかったことで、やはりと言うべきか、現在のドラマー、ジェイソン・ボーナムはこの場面では登場しないまま、ここまでで約一時間の第1部が終了した。

時の流れを感じさせた序盤だったが、徐々に往年の雄姿を取り戻す

 さて、次はピート・タウンゼントかロン・ウッドかと楽しみに待っていると、生前のアーティガンの映像がスクリーンに流れる中で始まったセット・チェンジで出てきたアンプやドラム・セットに見えたのはプリントされたお馴染みのツェッペリンのシンボル・マーク。これを見つけた観客が少しずつザワザワし始めてから約30分後の午後9時、突然暗転した場内スクリーンに映し出された『狂熱のライヴ』のボーナスDVD収録のニュース映像のバンド紹介場面をイントロに、ジョン・ポール・ジョーンズ、ジェイソン・ボーナム、ジミー・ペイジ、ロバート・プラントの4人がステージに登場。「グッド・タイムス・バッド・タイムス」で遂にツェッペリンの歴史的ライヴは幕を開けた。
 その瞬間を固唾を飲んで待っていたファンは、あのギター・リフが鳴り始めると最初から極度の興奮状態で盛り上がっていたものの、正直に言うと2曲目の「ランブル・オン」まではまだPAバランスが悪かったせいもあってか、本当に最後まで長時間のステージを務めることが出来るのだろうかとハラハラさせる立ち上がりだった。特にプラントのヴォーカルは少しフラット気味で、しかもリズムにも乗り切れずに手探りで歌い始めたような、そんな不安定な印象を受けたからだ。また真っ白な髪が時の流れを感じさせたペイジのギター・プレイもまだ地に足の着いていないような指捌きだったが、何よりの救いは父親ボンゾ譲りのパワフル&ヘヴィなジェイソンのドラムス、70年代と何も変わらないジョーンズのベースが、ドッシリと安定感に満ちたリズムを刻んでいたことで、特に序盤はこの強靱なリズム隊に助けられたと言っても過言ではないだろう。
 しかしながら、3曲目の「ブラック・ドッグ」で観客と“AH〜AH〜”を大合唱した頃からプラントの調子も上がりだし、次の「死にかけて」での粘っこいスライド・ギター辺りからはペイジも本格的にエンジンが掛かり始めたのが分かった。そうするとお互いに昔の勘を取り戻すかのようにプラントが得意のマイク捌きや足を交差させるポーズを決めれば、ペイジも少しずつお得意のステップを踏み始めるなど、徐々に軽快な身のこなしまで見せ始めたのには、懐かしい記憶が蘇ったようなノスタルジックな感動がなかったと言えば嘘になるが、全てを超越した音楽の持つ瑞々しさやダイナミズム、バンド固有のマジックが再び生まれる瞬間を目撃したような特別な高揚感に包まれている自分がいた。
 続いてプラントが「アーメットのおかげでジェイソンとこうしてこの日を迎えることが出来た」と感謝の言葉を述べると、観客も大きな歓声で応える中、ツェッペリン史上初めてライヴで披露する変則ビートの「フォー・ユア・ライフ」を難なく演奏。続けてジョーンズが跳ねるようにクラビネットを弾く「トランブルド・アンダー・フット」から「幻惑されて」までの中盤は、ミッド〜スロー・テンポのじっくり聴かせるヘヴィーでダーク目の曲を演奏して新生ツェッペリンのスケール感までアピールしたのはさすがだった。中でもプラントのヴォーカルとペイジのギター・フレーズとのユニゾンで始まる「俺の罪」の緊張感溢れるイントロ、「貴方を愛し続けて」でのエモーショナルにして何とも艶っぽいペイジのギター・ソロとプラントの歌い回しなど、結局どの曲も全て素晴らしいのだが、曲が進むうちにますます往年のツェッペリンのグルーヴ感を取り戻していくのが手に取るように分かった。

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