A Interview with Hiromi Part2 上原ひろみ 新作『BEYOND STANDARD』について 
スタンダード・ジャズからジェフ・ベック、そしてドビュッシーまで、
時代やジャンル、国境を越えてお気に入りの曲を集めた上原ひろみの新作がリリースされた。
音楽活動のベースをジャズにおきながら自由な精神で自己の音楽を追求しつづける
彼女の最新インタビューをここにおとどけしよう

インタビュー・文/榑林史章 写真/上河邊敦
 1年くらい前、上原ひろみのマネージャー氏から「いや実はね、スタンダードを…」と、何となく聞いていた。そのときはまったく想像がつかず、むしろスタンダードなんて普通すぎて面白くないくらいに思っていた。これまでの彼女の音楽性を知る者なら、きっと誰もがそう思っただろう。しかしいざ蓋を開けてみれば、いかに自分が浅はかだったことかと猛省した。往年のジャズ・ナンバーをリアレンジする、そんないかにものスタンダード集を作ろうなどという考えは、彼女のなかには毛頭なかった。いわゆるスタンダード集の概念を遙かに飛び越えた、まさに文字通りの『BEYOND STANDARD』な音の世界がそこには広がっていた。
ずっと以前からこういうアルバムをやりたいと思っていた。
「あくまでも人の曲なので、ちゃんと自分の音になる自信が得られるようになったら、と。それが2007年に今のバンド=SONICBLOOMを組んだとき、はっきりとしたサウンド・イメージが描けたんで、よしやろう! って」
 選曲されたのは「キャラバン」「朝日の如くさわやかに」などジャズ・スタンダードもありながら、ドビュッシーの「月の光」、ジェフ・ベックの「レッド・ブーツ」、坂本九の「上を向いて歩こう」、ミュージカル映画「サウンド・オブ・ミュージック」から「マイ・フェイヴァリット・シングス」などジャンルは実に多彩。しかしどれもずっと聴き続け、弾き続けてきた、彼女にとっての真のスタンダードばかりだ。
「初めてその曲を聴いて衝撃を受けてから、それ以降ずっと聴き続けていても、少しも飽きることのなかった曲たち。たとえば「月の光」は、7〜8歳のときピアノのレッスンで聴いたのが最初だった。それまで聴いていたクラシック…ロマン派以前のモーツァルトとかにはなかった斬新なハーモニー感があって、すぐに好きになった。それを遊びで、ここはこういうコードで弾いたら
面白いとか、私がドビュッシーだったらこうやっていたとか、小さい頃から勝手にアレンジして弾いていたんです。他の曲も、いつもCDに合わせて弾いたり、いろいろアレンジして弾いていた。ジェフ・ベックは高校生のとき、先輩に勧められて聴いたんだけど、最初は何じゃこりゃ! と思った。こんなにも攻撃的なのに、ジャズ・ギターのように太くて温かみのある音がして、太い幹みたいって言うか、ずるい! っていう感じ(笑)。それはもうすごい衝撃だったし」
 アルバムを聴いて最初に面白いと思ったのはオープニングだ。スタンダードの名曲「朝日の如くさわやかに」が約30秒流れるが、まるでレコードをそのままかけているような感じで、本編に入るといきなり上原流へと変化する。実は昨年に発売された前作『タイム・コントロール』のラストに収録された「タイムズ・アップ」の中に、本作への伏線が張られていた。
「その「タイムズ・アップ」のレコーディングのときには、今回の構想がもう練り上がっていたんです。前作とつながりを持たせることで、前作での“時間”というコンセプトが浮き彫りになるかな、と思って。「タイムズ・アップ」の中に埋め込まれていた「朝日の如くさわやかに」はタイムカプセルのようなもので、それを掘り起こして開けるときの演出として、イントロに懐かしさみたいなメッセージを込めている。だから、そこは出来る限り原曲に忠実に弾いてモノラル・マイクで録って、その上にレコード・ノイズをかぶせているんです」
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