アビイ・ロードの歩き方―私のビートルズとロンドン―THE WAY TO ABBEY ROAD『アビイ・ロード』のカヴァーを見ていちどはここを歩いてみたいと思った人からとくに何も思わなかった人まで、リアル・ピープルにきくそれぞれのビートルズ、そしてそれぞれのロンドン。

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#72 ビートルズを聴くためにステレオを買ってもらった (岡本定義)

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1.「『オールディーズ』は小4のお正月にお年玉で初めて買ったアルバム。馴染みのある曲がたくさん入ってるし、ジャケットもかっこいい。解説書を食い入るように読みながら聴いてた。今もスタジオの玄関のところにビスで留めて飾ってあるからもうヨレヨレ(笑)。この裏ジャケの写真だけで、どんだけいろんなことを想像したか。『パスト・マスターズVol.2』は初めて買ったCD。当時CDなんて高くて買えなかったけど、横浜のディスクユニオンで中古で安く出てたから。2枚とも思い出が詰まってる」

 物心つく前の2~3歳の頃、親が商売をやってたんで昼間面倒をみてくれていた近所のおばちゃんちの息子さんがいつもビートルズをかけてて、それに合わせてよく踊ってたらしいんですよ。特に「アイ・フィール・ファイン」のビョ~ンやリズムに反応してたみたい(笑)。その後、小学校4年のときに友達の家に遊びに行ったらお父さんが聴き覚えのあるレコードをかけてて、そこで初めてあの音楽がビートルズだったと知りました。その次のお正月にお年玉で買ったのがベスト盤の『オールディーズ』。今聴いてもいいものを2歳のときに聴いて反応できた自分はすごいなぁ、と思いますね。

 それまで買ってたのは歌謡曲のシングル。アルバムはポータブルのプレーヤーだと盤がはみ出しちゃうわけですよ。で、ビートルズを聴くためにステレオが欲しいって言い出したのが中1のとき。うちにステレオが来た日は嬉しくて熱が出ちゃったもん(笑)。いまだにロープランド・スタジオ(COILの基地でもある綱島のプライベート・スタジオ)にあるスピーカーはそのときのヤマハの10M。もう30年近く使ってる。

 ある人が"初めて自分で買ったアルバムはその人を象徴している"って言ってたんだけど、俺はアナログが『オールディーズ』で、CDは後期の編集盤の『パスト・マスターズVol.2』。無意識のうちに初めて買ったものが両方ともビートルズで、しかもベスト盤。いいところをつまんである。僕、本を読むのがすごい好きで、最近は古典ばかり。死んだ人の言葉ばっかり読んでる。特に好きなのが『論語』。でも2500年前のオッサンの言った言葉を後からまとめてるから、解釈もぐちゃぐちゃなの。いろんな人の説がある。それをひとつひとつ読んでるうちに、俺はこの部分はこっちの人のが好きだな、でもこっちの部分は違う人のほうがいいな、って自分で編集し始める。おいしいところを選ぼうとする。そうすると『論語』そのままを受け入れるんじゃなくて、フレーズごとにいろんな組み合わせをした"俺の論語"ができてきたりする。ビートルズもどこに焦点を当てるかでいろんなとり方ができるし、『論語』の中の言葉が格言として生活の中に普通にあるように、ビートルズはふだん聴いてなくても頭の中でいつでも鳴らすことができる。でもそれは完コピじゃないの。ベスト盤好きで編集好きだから、いいところだけ抜き出してる。音楽を作る職業としては完璧に思い出せないほうがいい。この部分とこの部分を思い出したら、その間の部分は自分で補完したり自分の中から出そうとする。それはさっきの『論語』の解釈と一緒で、すごくクリエイティヴな作業。自分なりのビートルズが、音楽制作にいい影響を及ぼしている。この歳になってそれがわかった。ビートルズの音楽にはいろんなエッセンスが入ってるから、そういう素材としても本当に出会えてよかったと思います。

 ビートルズのすごさは他のものを聴くともっとわかる。一度宇宙に出て外から見た地球はやっぱすごいぞって思うのと同じように、他のにはまってからビートルズに戻ってくると、これを最初に好きになって本当によかったと思える。大学の頃も俺はビートルズしか聴いてなくて、友達と酒を飲みながら朝までビートルズとストーンズのいいところを言い合ったりしてたのね。ビートルズに較べて、ストーンズはカバーのセンスがすごいよかったんですよ。でも荒削りだったんで、オリジナルのマディ・ウォーターズのほうがすげぇな、とか思っちゃったりしたんだけど、ビートルズはオリジナルのチャック・ベリーよりこっちのほうがいいと思えるくらいに完成されてた。だから実はルーツにさかのぼりにくいの。ストーンズはルーツをたどって、"マディすげぇ! こんな曲を選んだストーンズのセンスもすげぇ!"って思えるんだけど、ビートルズはよそになかなか行かせないんだよ。ストーンズ・ファンの友達が"そんなんじゃダメだ"って言うから他のも聴き始めたんだけど、そしたらさらに良さがわかった。

 でも僕、パスポート持ってないんです(笑)。一度も日本を出たことがない。バーチャル・トラベラー。部屋に閉じこもって本を読んだりレコード聴いたりしてるほうが好き。写真1枚あればすごくたくさんのことが想像できる。昔からずっとそう。手品の種明かしってつまらないでしょ? 情報がないほうが頭の中で穴埋めするから楽しいの。アビー・ロードをいつか絶対この目で見たいとも思わない。でも取材とかで連れてってくれるなら、それはそれで行きますけど(笑)。

  取材・文/佐々木美夏

岡本定義
ミュージシャン


7月27日生まれ。神奈川県横浜市出身。佐藤洋介とのユニットCOILとして98年「天才ヴァガボンド」でデビュー。その卓越したソングライティング力はCOILのみならず、元ちとせや杏子などへの楽曲提供でも知られる。デビュー10周年を迎えた08年には"福耳"のニューシングルをCOILとして作詞作曲から録音まで完全プロデュース。セルフカバーミニアルバム「ギャルソン」と3年ぶりのオリジナルアルバム「Vitamin C」をリリースした。 動画配信サイト「オーガスタシアター」にて08年12月4日に恵比寿LIQUIDROOMで行われたCOILデビュー10周年スペシャルライブを配信中!

COIL オフィシャルサイト
http://www.office-augusta.com/coil/


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