アビイ・ロードの歩き方―私のビートルズとロンドン―THE WAY TO ABBEY ROAD『アビイ・ロード』のカヴァーを見ていちどはここを歩いてみたいと思った人からとくに何も思わなかった人まで、リアル・ピープルにきくそれぞれのビートルズ、そしてそれぞれのロンドン。

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#64 『ホワイト・アルバム』で示されたその幅を込めてのロックが好き (萩原健太)

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1.ロバート・ゼメキスによる初監督映画『抱きしめたい』(1978年製作)の輸入DVD。「ビートルズが初めてアメリカにやって来たときに、6人のティーンエイジャーが巻き起こす騒動を描いたフィクションで、4人に会いたくてホテルのボーイに化ける若者や、ビートルズのせいでそれまでラジオで頻繁にかかってたザ・フォー・シーズンズがかからなくなったと怒る若者なんかが出てきます。ビートルズの『エド・サリヴァン・ショー』出演のシーンでは、スタジオのモニターに本物の映像が映る一方で、舞台にはそれと同じ動きをする役者がいたりして、ゼメキスらしい細かいネタが仕込んであります。僕はビートルズを題材として扱ったこういう周辺的な映画とか音楽とかが好き。ビートルズには二次的な作品を触発する強い力があって、しかも切り口を無限に持ってるから、それがどう表現されるのかを鑑賞するのが楽しいんです。そういう作品を通じてもういちどビートルズに立ち返ったり、ビートルズらしさがわかったり、魅力がよりクリアに見えてきたりします。日本でもぜひDVD化してほしいな」

 10歳のときにビートルズの来日公演をテレビで観ました。その前後に、GSブームの延長線で彼らのヒット曲をラジオで聴いたり、テレビ番組の『ザ・ヒット・パレード』で日本人の歌手がカバーするのを観てました。ハマったのが、「ハロー・グッドバイ」。コーラスの♪Hello good-bye, hello good-bye♪が普通のドレミファソラシドなんだけど、学校で習った退屈なドレミがこんなにカッコよく歌えるのかって感動しました。

 ビートルズは音楽や可能性を外に広げる精力的な活動をしてたので、その柔軟な考え方にはかなり影響を受けました。たとえば音楽の切り口の作り方、興味の持ち方、自分が受けた影響をどう昇華させるのか、好奇心をどう実現させるのかという面ですね。必ずしもバンドとしてやらなくていいんだっていう、「イエスタデイ」あたりから始まった自由も、『ホワイト・アルバム』で爆発したんだと思います。このアルバムは現代音楽的アプローチあり、フォーク、伝統音楽、ボードビルっぽいもの、ハリウッド的なものありで、絶対にひとつのジャンルには収まらない幅広さや柔軟性を持ってます。僕が「ロックが好きだ」というとき、それはビートルズが『ホワイト・アルバム』で示してくれたその幅を込めてのロックなんです。

 僕はアコースティック・ギタリストとしてのポール・マッカートニーが大好きで、ポールのギターで音楽を学んだといってもいいくらい。1本のギターで、ベース・ラインと、あとふたつぐらいの音が交互に鳴ってるなかにメロディが奏でられ、アンサンブルが完結してるんです。決して無駄な音は使わずに、ものすごくふくよかですばらしいコードができあがっちゃう。そんじょそこらの人に真似できる芸当ではありません。ポールも勘でやってるんだと思うけど、それを選び取る強さを感じますね。弾き方にしても、たとえば「ブラックバード」はカーター・ファミリー・ピッキングというカッティングなんですよ。決してスリー・フィンガーじゃない。そのかっこよさがポール!

 コードのつけ方にも特徴がある。ポールの曲ではメロディがコードからちょっと外れたテンション・コードに行くことが多いんです。「ハロー・グッドバイ」のアタマでいうと、コードはFだけど、メロディはそこから外れたシックス。メロディをテンションで歌いつつ、ギターではテンションなんかかまわずにストレートなコードだけを弾く。そこがポール! その潔さこそがロックンロール!

 ロンドンにはちょくちょく行きます。2007年9月にはロイヤル・フェスティバル・ホールでブライアン・ウィルソンのライブを観ましたが、『サージェント・ペパー』発表40周年だということで、ブライアンが「シーズ・リーヴィング・ホーム」をテンポもアレンジも変えて歌いました。彼がちょうどアルバム『スマイル』を作ってたときに、ポールがスタジオに遊びに来て「新曲だよ」って聴かせてくれたのがこの曲だったという話をして。おもしろかったのは、この曲を演奏すると言ったのに、始まったのは「ゲッティング・ベター」のイントロだったんです。そのテンポのまま「シーズ・リーヴィング・ホーム」に突入して、途中でみんなが知ってるあのワルツにガラッと変わるんだけど、もしかしたら、ポールは最初そういうアレンジでブライアンに聴かせたのかもしれないなんて妄想がふくらみましたね。2004年のブライアンのライブでは、シートに座ってふと後ろを見たら、客席にポール・マッカートニーを発見。前にブライアン、後ろにポール! うちの奥さんがポールの写真を撮ろうとしたら、視界を遮るジイさんが……。それがジョージ・マーティンだったというとんでもないことがありました(笑)。

取材・文/吉野由樹 写真/小倉直子

萩原健太
音楽評論家


1956年生まれ。出版社勤務を経て、81年からフリーの音楽評論家、音楽プロデューサーとして、またみずからもギタリストとして音楽活動を行なうなど多方面で活躍。『ポップス・イン・ジャパン』『ロックの歴史 ロックンロールの時代』など著書も多数。2003年には黒沢健一とアコースティック・ユニット健'zを結成。アルバム『Ken'z』でポール・マッカートニーの「ヴァニラ・スカイ」「エヴリナイト」「故郷のこころ」「ソー・バッド」「ジャンク」、ウイングスの「ベイビーズ・リクエスト」、『Ken'z with Friends』ではポールの「カリコ・スカイズ」をカバーしている。
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