アビイ・ロードの歩き方―私のビートルズとロンドン―THE WAY TO ABBEY ROAD『アビイ・ロード』のカヴァーを見ていちどはここを歩いてみたいと思った人からとくに何も思わなかった人まで、リアル・ピープルにきくそれぞれのビートルズ、そしてそれぞれのロンドン。

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#58 自分に一番遠いアートの世界に憧れて、失敗しました (みうらじゅん)

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1.『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の見開きジャケット内側。「ミュージシャンって、顔だと思います。4人並んでるなかで、ジョンひとりだけ顔が変だもん。ジョージはいかんせん男前だったから、悩んだんだと思う。リンゴはリンゴだし、ポールもどうかわからないところにいる感じはするけど、ジョンはロックの顔をしてた。ディランもそうだけど、行き過ぎた顔をしてるよね。ジョージも、ジョンみたいな顏してたら悩むことなく進めたのに。音楽的な才能もすごくある人だけど、ひとつだけ悩んだのは、エリック・クラプトンもそうだけど、意外とイケてた顔をしてたことでしょうね」

 ビートルズの曲は、いつも新しいものを聴いたときに、いいとは思えなかったんです。小学生の頃、東芝のステレオのテレビCMで「レット・イット・ビー」が流れてて、すごくいい曲だったから、シングル盤を買ってもらってね。そのB面が「ユー・ノウ・マイ・ネーム」。当時若くて真面目だから、すごくふざけた音楽に思えて、「何なんだ、これ」って。今聴けばとても愉快なのかも知れないけど、あのふざけた感じに小学生としてはついていけませんでした。

 その後、「イエスタデイ」とか数曲しか知らないのに、「『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』が一番いい」と聞いて買ってみました。知ってる曲が1曲もない、全体がトータルにつながったアルバムを聴いて、見開きジャケットの中のジョンの顔を見て「すっげえ変だな」と思って、「これは困ったぞ」と(笑)。

 それから中学生になってちょこちょこアルバムを買うようになって、初めて輸入盤で買ったのが『イマジン』。レコード袋に書いてあった「イマジン」の歌詞が簡単そうだったから、訳してみようと思ったんです。でも英語が苦手だったので、「天国はあると思ってみな」とか、全部肯定で訳しちゃった。なのに「うまいこと言うな」って感心したりしてね。後から全部否定の言葉と知ったけど、反対の意味でも感動してるんだから、大したもんだな自分って(笑)。これは般若心経にインスパイアされたんだな、と後から思いました。すべては空である、という。ヨーコさんが教えたのかな。

 で、ジョンがすごく気になって、次に『ジョンの魂』を普通に買えばいいのに、『サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ』を買っちゃった。フランク・ザッパとやった、ヨーコさんがキャーキャー言ってるライブに、また「……何だこれ!?」って、すごい悪いほうの衝撃を受けて。どうしようかと思って次に買ったのが、当時の音楽雑誌とかが妙に評価しちゃってたヨーコさんのアルバム。また間違えた。わけがわからない。今になって、自分が新作レビューとかの仕事をやるときに、すごく重要なことをしてるんだなと思います。若い子がなけなしの金で買うやつを「これは名盤である」とか書いたらね。そういうのって、大人になってから改めて聴くと、いいと思えるんですけどね。時間がかかるもんね(笑)。『平和の祈りをこめて』もわけがわかんなくて、映像を見たら、ヨーコさんが袋の中に入ってた。

 自分に一番遠いアートの世界に憧れて、アーティストがそのとき一番やりたいことをやってるレコードを買おうとしたがために失敗したんですね。でも、あのときに「イエスタデイ」とかが入ってるベスト盤なんか買ってたら、僕は今ビートルズを聴いてないと思います。やっぱり、ロックって「何だ? これは」というハードルが高いものがいいんですよ。

 イギリスには、ローリング・ストーンズのレコード・コレクターの方に「そろそろ、みうら君も海外に進出だよ」と誘われて、ボブ・ディランのレコードを買うためだけに行きました。カードを持ってなかったので、100万円、腹に巻いてね。イタリアを回ってから、ロンドンに入りました。そりゃ、アビイ・ロードも見たかったし、マダム・タッソーだって見たかったけど、その人が「そんなことに目が向くようでは、真のコレクターになれない。次のレコード屋、行くよ」って言う後ろをついて行くだけ。毎日、ホテルから中古盤屋に直行してましたよ。

取材・文/鳥居一希

みうらじゅん
イラストレーターなど


1958年京都府生まれ。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。以来、漫画家、イラストレーター、作家、ミュージシャン、ラジオパーソナリティーなどで幅広く活躍中。近著に『アウトドア般若心経』(幻冬舎)、『色即ぜねれいしょん』(光文社)などがある。
みうらじゅんofficial web site! miurajun.net


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