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2009.11.19UP

文藝春秋月間

11月3日

 10月は、文藝春秋月間ともいえる月であった。送られてきた本、買った本に文春本が多かったということなのだが、毎号送って頂いているのが「文学界」で、高校時代、神戸の女子高校生、熊田真記嬢の「寒い夏」が、「展望」に掲載、オレも一瞬、小説を書いてどこかに応募しようかな、と思ったこともあり、その時、教員室の古文の村上先生の机の上で発見したのが「文学界」であった。しかし書けず、結局、柴田翔の芥川賞作品『されどわれらが日々』書評を福知山高校新聞に書いてお茶を濁した(?)。

 文春単行本波状攻撃の最初の合図は本ではなく、CD《ニューヨーク・ヘルソニック・バレエ》であった。<菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール>という、覚えられないユニットなので、<菊地ペペ>というかわいいのかかわいくないのかわからない短縮名を案出、わが隙間脳に何とか刷り込んだ。
 オペラ・アリア<私が土の下に横たわる時>(《ディドとエネアス》)もペペ流のアレンジで驚かされたが、ともかくエキサイティングな1枚で、紙ジャケに使用された絵もいかしている。

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 CDと前後して、届いたのが、菊地+大谷能生の『アフロ・ディズニー』、慶応義塾大学での講義を元にした、これまたエキサイトさせる一冊。
 DVDやCDに囲まれたオレの現在が、20世紀型文化受容の幼児化の極み、アブアブ、ボクちゃんオチチ吸いたい、の口唇期の退行性ユートピアにあることはよくわかりました。なぜ、オレの最初の映画評論集に<映画の乳首>としたかも(笑)。

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 さてお次の文春本は、慶応のミステリー研究会出身(早稲田も含め、ミス研のマスコミ占有率の高さよ!)、現・文春の翻訳書籍部門の熱源=永嶋俊一郎が惚れ込み、惚れ込み、渋る上司を口説き落とし、売れなかったボーナス返上、今年はどこも少ないからローンが大変、分割返上でいい? シーズン・インの上海蟹、コースでおごりますから、とか何とか口説き落とし、承認印を奪い取ったかのような熱気が伝わるのがカルトなマット・ラフの日本初紹介小説『バッド・モンキーズ』である。ちなみに、文春編集者はすべて、わずかでも接点が出来ると、小生のようなうつけにもいつも優しいことに感心する。

 横山啓明氏のガッツと勢いのある名訳によって、一気に読み進んだが、内容はというと、尋問室で取り調べを受ける女が語り出す、怒濤、波乱、眉唾なヒストリー、キャリア・・・。さてさてどうなるだが、とにかく女の話のディテールの濃密にノックアウトを食らった、というしかない。

「パメラ・スー・マーティンのファンなんだ。ほらテレビでナンシー・ドルーを演じた女優さんだよーー問題を起こして降ろされちゃうまで、ナンシー・ドルー役だった彼女さ。(略)、ちょうどその年に『赤いドレスの女』で主役になってジョン・デリンジャーのガール・フレンド役を演じたんだ」

 ちょっと調べてみたいと思わせるではないか。マット・ラフの処女作『フール・オン・ザ・ヒル』もビートルズの名曲が脳内を潤し、タイトルだけでイクよね。これもはやく訳してほしい。

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 さらに10月末ぎりぎりに送られてきた、年間ベストテン、ランク・インまちがいなしの文春本が、ジェフリー・ディーヴァーの『ソウル・コレクター』であった。『ボーン・コレクター』で登場した寝たきりの超頭脳=リンカーン・ライムを主人公にした人気シリーズの最新刊だが、今回は突然の従兄弟の登場にシリーズの苦労が忍ばれる。この従兄弟がなにもやっていないのに証拠はすべて完璧に犯人であることを示す殺人によって逮捕され・・・。

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 これを、蕎麦屋でたまたま川本三郎さんに薦められて購入した奥田英朗の『無理』とまさに交互に読み進めた月末、月初めであった。地方都市のどうしようもない現実を反映した集団劇がラスト、ワン・ポイントで運命の集約を迎える無理な設定があざやかに決まった『無理』を読むと日本人の劣化、もう再生は無理という状況がありありとわかる。このところ日本を死体だらけにした女二人のしたたかな投げやりが自然発生した理由もわかるような気がする。いずれだれもが狂いはじめるだろう。

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滝本誠(評論家)
1949年京都府生まれ。東京藝術大学卒業、専攻美学。「キネマ旬報」誌3月下旬号より新連載<セルロイドの画集 シネマ・アート・ランダム>開始。『映/画、黒片 クライム・ジャンル』刊行は5月初旬予定。
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