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2009.09.24UP

The Ultimate Workprint!『ブレードランナー』

 ポストに差出人不明の郵便物が。いや正確に言えばNの文字が書かれている。N? 
 差出人不明といえば、ジム・ジャームッシュの『ブロークン・フラワーズ』の手紙が思い浮かぶが・・・

 手触りからするとDVDらしきものが封入されているようだ。デイヴィッド・リンチの『ロスト・ハイウエイ』か? 誰かが我が家に侵入し、オレの寝顔を撮影して、それを送りつけてきたか? 独り寝ジジイの過呼吸症候群を心配して?
 
 開封すると『ブレードランナー』のDVDが入っていた。5枚組ででてからもう2年になるが、改めて単発ででるようなことは聞いていない。ジャケットに打ち込まれた文字はThe Ultimate Workprint!
?????????
 とりあえず観た。
!!!!!!!!!!
 鳥肌である。

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 もう30年近くも前か、京橋にあったワーナー宣伝部の早川龍雄氏にタキさんちょっと観てくれない、と呼ばれ、こんなのが来ちゃったんだけど、よくわからねえ、観てくんない。

 みせられたのは、数分の『ブレードランナー』、あの冒頭の暗いロスの上空をスピナーが飛ぶ場面だけのもの。ヴァンゲリスの音楽はまだ入っていなかった。それだけが届いたという。暗いんだよ、当たると思う? と聞くから、画面は暗いけど、これはすごいイマジネーションですよ!  当たる、当たらないはこれだけじゃわからない、と答えたことを覚えている。オオコケだった。

 『エイリアン』によって、アート系人材の生かし方、ピックアップに冴えをみせたリドリー・スコットの新作が期待できないわけがないが、フィリップ・K・ディック原作から思い描くヴィジュアルとはまったく異なる印象をその時受けたことも事実なのである。

 当時まだこちらは、映画の原稿はほとんど書いていなかったが、『ダカーポ』編集部に在籍で映画はよく観ていた。

 このときの衝撃に近いものが、久しぶりに観る『ブレードランナー』にあった。リドリー・スコットも最初からこれを提示し、スタジオからの圧力他をはねのけていれば、なんの問題もなかった。5枚組DVDとか無駄な出費をこちらもせずにすんだはずなのである。つまりはスコット本人もまちがいなく驚嘆するであろうもっとも説得力ある『ブレードランナー』が目の前で展開していく。

 プリスが多層ハイウエイを歩いているショットが組み込まれただけで、映画の空間力が一変することに改めて驚いた。

 付いてきたメモに、私家版ですとあり、謎のNが、さまざまなヴァージョン、未公開映像、はじめて聞くことになった、ハリソン・フォードの新発見完全ナレーションをこつこつとパソコン上で再編集し、字幕も補って、ジャケットも自分でデザインし、昨年完成させていたものらしい。もちろん売り物ではない。恐るべき愛の作業の2時間半ヴァージョン。それをオレに送りつけてきたのだ。誰かは知らないが、深く感謝したい。

 今後はこのヴァージョンが『ブレードランナー』の私的定番となる。


 

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滝本誠(評論家)
1949年京都府生まれ。東京藝術大学卒業、専攻美学。「キネマ旬報」誌3月下旬号より新連載<セルロイドの画集 シネマ・アート・ランダム>開始。『映/画、黒片 クライム・ジャンル』刊行は5月初旬予定。
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