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2009.06.29UP

J・アイヴォリーが映画化したピーター・キャメロン『最終目的地』を読む

6月7日(日)
 ピーター・キャメロンの『最終目的地』(岩本正恵訳/新潮社/2009年)を読了。
 この小説を読みたいと思ったのは、ジェイムズ・アイヴォリーが映画化しているからだ。タイトルは小説の原題と同じ『The City of Your Final Destination』で、2007年製作だからとっくに公開されていてもおかしくないのだが。

 アイヴォリーが強い関心を持ち、その作品の映画化をもくろむ作家には共通点がある。ヘンリー・ジェイムズもE・M・フォスターもカズオ・イシグロも、それぞれに独自の体験から国際的な視点を培い、異国や異文化のなかを彷徨う人物、あるいは、国家や階層、ジェンダーなどをめぐる境界に立たされる人物の意識を掘り下げてきた。

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 彼らの小説の背景となる土地や文化、社会的な状況は、映画において大きな魅力になるが、小説に描き出される登場人物たちの内面を映像で表現することは容易なことではない。しかしだからこそ、アイヴォリーは、こうした作家たちの作品に創作意欲を刺激されてきたのだろう。

 ピーター・キャメロンは、これまでの作品から想像する限りでは、アイヴォリー好みの作家の系譜とは大きな隔たりがあるが、この『最終目的地』は違う。そこには、この監督が求めるものが集約されているといってもよいだろう。

 物語は、カンザスに住む大学院生オマー・ラザギが、ユルス・グントという亡くなった作家の遺族に手紙を送り、伝記を書く企画の公認を求めるところから始まる。

 ユルスの3人の遺言執行者とその家族、具体的にはユルスの妻のキャロライン、愛人のアーデンとその娘、兄のアダムとその恋人のピートは、南米ウルグアイの人里離れた屋敷にひっそりと暮らしている。キャロラインとアーデンとアダムは、それぞれの事情によって伝記を公認しない決定を下すが、彼らを直接説得するためにオマーが現れ、物語は意外な方向へと展開していく。

 この小説に登場するのはみな故郷を喪失した人々だ。アダムとユルスの両親は、ナチスの迫害を逃れてドイツからウルグアイに渡り、辺鄙な土地に故郷であるバイエルン地方を再現しようとした。

 キャロラインはニューヨークで妹と暮らしていたが、ユルスと出会い、結婚し、ウルグアイに渡った。アーデンは5歳で母親を亡くし、ウィスコンシン州で祖母に育てられ、祖母が亡くなるとイギリスで父親と暮らした。その後、キリスト教の布教グループの一員としてウルグアイを訪れたときに、大学で教えるユルスと出会い、恋に落ち、そこに留まることになった。タイのバンコクに生まれたピートは、生きるために男娼になり、あるドイツ人との縁がきっかけでシュトゥットガルトに移り、アダムと知り合いウルグアイに落ち着いた。

 オマー・ラザギは、イラン生まれで、彼の両親は王が退位したときに国を出て、カナダに渡り、将来に関してその両親と対立する彼は、カナダからカンザスに移った。そんな彼は、大学のディアスポラ文学の授業で、ユルスが発表した唯一の小説『ゴンドラ』を読み、伝記を書きたいと思うようになる。

 故郷を喪失した登場人物たちは、自分が見えなくなっているが、オマーが彼らを訪ねることによって、様々な波紋が広がり、それぞれの"最終目的地"が次第に明らかになっていく。優雅な趣、独特のユーモア、豊かな洞察、繊細な表現、これはなかなか素晴らしい作品だった。

 アイヴォリーの映画では、アダムをアンソニー・ホプキンスが、キャロラインをローラ・リニーが、アーデンをシャルロット・ゲンズブールが、ピートを真田広之が演じている。真田広之は前作の『上海の伯爵夫人』にも出演していた。小説を読んでいるときには、キャストはまだ頭に入っていなかったが、筆者はアダムをアンソニー・ホプキンスに重ねていた。ちなみに、IMDbの一般評価ではかなりの高得点を獲得しているが、なぜ公開されないのだろうか。

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大場正明(評論家)
1957年神奈川県横浜市生まれ。中央大学法学部卒。映画、音楽、書物その他の評論。著書・編著書は『サバービアの憂鬱』『CineLesson15 アメリカ映画主義』など。趣味は登山、写真、料理。
大場正明 HOMEPAGE http://c-cross.cside2.com
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