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2010.02.03UP

映像を喚起する楽曲の魅力

新しい年の幕開けを飾るようなタイミングで、ヴァンパイア・ウィークエンドの
2年ぶりのセカンド・アルバム『コントラ』が発表された。聞き込むほどに
味わい深さが増す秀作である。

『コントラ』

『コントラ』

[鋭い直球が武器のルーキーが、技ありの変化球も得意なエース投手に成長・・・]
というのは、ミュージック・マガジン(発売中の2月号)で僕が担当したアルバム評の
書き出しである。

メンバー全員がニューヨークのコロンビア大学卒業生、といういかにもエリートっぽい
イメージのグループだが、ブルックリンのバンド仲間たちとの交流で、一段と逞しく
成長した成果がうかがえる作品となっている。

アルバム評の依頼とともにサンプル盤が届けられたのは年が暮れるほんの数日前──とい
う訳で年末年始はヴァンパイア・ウィークエンドにどっぷり!グループの情報にもいく
つか目を通し、奇妙なバンド名の由来を改めて知ったのだった。

ヴァンパイア・ウィークエンド

ヴァンパイア・ウィークエンド

"吸血鬼の週末"を意味するヴァンパイア・ウィークエンドというのは、もともとはリー
ド・ヴォーカリストのエズラ・クーニグが撮ったアマチュア・フィルムのタイトルだった、
という。クーニグがいわゆる映画青年であることから成るほど、と納得させられたのは、
ヴィジュアル感覚に訴える楽曲が少なくないこと──「ホワイト・スカイ」はその好例で、
大企業の鏡張りの超高層ビル群が光を反射しあいながら林立しているマンハッタンの光景が、
クーニグの歌声から立ち現れて来るようである。

ミュージック・マガジンのアルバム評は、「ディプロマッツ・サン」の[歪んだレゲエ・
ビートに呼応して時間と空間が捩れていく、シュールなゲイ映画の一場面のようだ。]
という印象を記して終わっているが、この曲の短編映画を思わせる魅力について、
少々補足しておきたいと思う。

アルバム『コントラ』の中でも異色といっていいこの曲は純然たるオリジナルではない。
原曲となったのはトゥーツ・アンド・メイタルズの「プレッシャー・ドロップ」で、
歌詞は自由に書き換えられている。さらに凝った趣向としてM.I.A.のヒット曲
「ハッスル」がサンプリングされている。

僕が思い描くこの曲の映像とは──<ある少年が親友とマリワナを吸う。ふたりはベッドの
中へ。少年が目覚めたとき、親友はそこにいなかった。風が川面を走る暗がりの中、外交官
プレートの黒い車が見えた。彼は外交官の息子で、あれは1981年のことだった>

今から30年も昔の出来事が、フラッシュ・バックで挿入され、どこかノスタルジックな
ムードが漂うゲイのラヴ・ストーリーを描いたショート・フィルムのワン・シーンを
思わせないだろうか?

僕がこの曲にゲイの匂いをかいだのは、単純にベッドの中のふたりを思い描いたからなのだが、
これがゲイのラヴ・ソングであるという確信は、正直言って、なかった。ところが、僕の直感が
当たっていたことが、最近になって判明したのである。

ROLLING STONE(Issue1097 February4 2010)のヴァンパイア・ウィークエンドの特集記事は、
グループのマルチミュージシャンでありアルバムのプロデューサーでもあるロスタム・バトマ
ングリが、実はゲイであることだけでなく、「ディプロマッツ・サン」もそもそもはクーニグが
書いた寄宿学校の乱闘というストーリーを、彼がラヴ・ストーリーへと書き換えたものである
ことまで伝えているからであった。

さて、ヴァンパイア・ウィークエンドのショート・フィルムの数々が、アルバムのリスナーの
心のスクリーンに映写されるものとすれば、アルバムの全曲を実際のショート・フィルムとして
表現してしまうというなんとも大胆な発想のグループも存在する。
BEACH HOUSEというボルティモアを拠点とする男女のデュオがそれで、彼らの3枚目のアルバム
"TEEN DREAM"(Sub Pop Records SPCD845)はCD&DVD2枚組み仕様で発表された。

BEACH HOUSE

BEACH HOUSE "TEEN DREAM"

ビーチ・ハウス? ティーン・ドリーム? バンド名もアルバム・タイトルも僕にはぜんぜん
お呼びじゃない、っていう感じ! それなのに興味を引かれたわけは、やっぱりブルックリン・
コネクションだ。ある日のアマゾンからのお薦めメールにこのアルバムが載っていた──
プロデューサーの名前に僕の目が釘付けとなった。クリス・コウディ!

コウディといえば我が最愛のTV・オン・ザ・レディオやヤー・ヤー・ヤーズのアルバムで、
プロデューサーのデイヴィッド・シーテクの下でエンジニアとして活躍中の人物であり、
その彼がプロデュースを担当したアルバムとなれば、無視できない。

ヴォーカリストのヴィクトリア・ルグランとギター&ベースのアレックス・スキャリーの
ふたりがデビューしたのは2006年で、"Teen Dream"は3枚目のアルバムということだ。
二人そろってオルガンが得意らしく、その響きがルグランのメランコリックな歌声と絶妙の
ハーモニーを奏でる。十代の夢とは、いつも甘く、明るいものではないことを、彼女の歌声が
実感させてくれる。

全10曲、僕にはまったく未知の映像ア-ティストたちによる作品群は、いわゆるプロモーション・
ヴィデオではなく、それぞれが楽曲からうけたインスピレーションをもとに、意欲的に独自の
ショート・フィルムを作成したという趣にあふれている。

DVDの冒頭を飾るパペット・アニメは、クウェイ兄弟を連想させるし、教会の巨大な十字架の前で
ルグランの歌を口パクする老女の姿は、デイヴィッド・リンチの映画の一齣のようだ。
かとおもえば、狼男のように顔中に毛の生えた青年の復讐を描いた一編は、白昼夢さながらの
ホラー仕立て、という具合である。全身銀粉メイクの美女(?)たちがフラフープと乱舞する一編は、
他でもないヴィクトリア・ルグラン自らが監督したものである。

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今野雄二(映画・音楽評論家)
1943年生まれ。北海道出身。国際基督教大学(ICU) 卒業後、出版社勤務を経て評論活動へ。「11PM」など数々のTV、ラジオ番組で映画、音楽を紹介。「週刊朝日」の星とり評を連載中。

Title Photo:Tsuyoshi Harikae
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