2009.12.10UP
フルスピードで疾走する白いダッジ・チャレンジャーが前方からやってきた黒いクライスラーとすれ違う。一瞬の後、白い車はスーッと掻き消えてしまう......
冒頭のこの、なんとも魅力的なミステリーに包まれたワン・シーンだけでも、『バニシング・ポイント』は忘れられない映画、といっていい。
1971年に日本でも公開され、当時流行していたアメリカン・ニュー・シネマの一本として、若い映画ファンの間では結構話題になった、と記憶している。それ以降、ヴィデオやDVDも発売され、いわゆるカルト・ムーヴィーとして人気を保ち続けていた。
リチャード・C・サラフィアン監督が描くのは、デンバーからカリフォルニアまでの距離をたった15時間で走破しようと、時速200マイルのスピードで、ひたすら車を走らせる一人の男の姿だ。

『バニシング・ポイント』
© 1971 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.
ほとんど無名といってもいいバリー・ニューマンが演じる主人公の名前はコワルスキー。ヴェトナム帰還兵で元警官という経歴だが、今は陸送屋──物語はそのコワルスキーが黒いクライスラーで陸送屋のオフィスに到着する金曜日の夜からスタートする。
彼の次の仕事は白いダッジ・チャレンジャーをカリフォルニアまで運ぶことだったが、ひょんなことから日曜日までに着けるという賭けをしたばかりでなく、ドラッグも入手。かくしてコワルスキーの猛疾走がスタート! 追いすがるパト・カーを振り切って逃げまくる彼に、盲目の黒人ディスク・ジョッキーがラジオから応援メッセージを送る、という粋な趣向も盛り込まれていく。
体制に逆らって走り続ける主人公は若者たちの共感を呼ぶアンチ・ヒーローとして申し分のない存在といえるだろう。
日本で公開された『バニシング・ポイント』がアメリカ公開版(99分)で、実はそれよりも7分も長いイギリス公開版があることをご存知だったろうか? 僕もそれに関しては初耳だったのだが、DVD化を機会にようやく見ることができた。
![バニシング・ポイント コレクターズ・エディション[初回限定生産]](http://e-days.cc/cinema/2009/12/10/konno091210_2.jpg)
『バニシング・ポイント コレクターズ・エディション[初回限定生産]』(キングレコード株式会社 12月23日発売)より
© 1971 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.
コレクターズ・エディションと銘打った3枚組のパッケージは、アメリカ公開版&特典映像を収めたDISC1,イギリス公開版を収めたDISC2,そしてこれが日本では初のCD化となるサウンドトラックを収録したDISC3という内容だ。
さて、注目のイギリス公開版だが、シャーロット・ランプリングの出演シーンがやはり最大の話題といえるだろう。彼女が登場するのは終盤に至ってからだが、コワルスキーが夜、森の中で出会う女性の役で、彼の車に同乗するのだが、見ようによっては主人公のファンタジーとも受け取れるミステリアスなムードが漂ってくるエピソードである。
ミステリーといえば、もう一度冒頭のエピソードに戻らなくてはならないだろう。2台のブルドーザーが行く手を遮り、後方からは3台のパト・カーが追い迫るという、絶体絶命のピンチ! 一度ハイウェイを外れ、砂漠に避難したコワルスキーは、何かを決意したような表情を浮かべ、再びハンドルを握り、ハイウェイへ......そして黒いクライスラーとの遭遇と、消滅!
そのクライスラーが実はミステリーの鍵となっている。運転しているのはもちろんコワルスキー自身であり、彼はデンバーの陸送屋のオフィスへと向かっているのだ。という訳で、彼のクライスラーはそのまま金曜日の午後11時30分へと、時間軸を遡っていく。平たく言えば回想シーンからストーリーがスタートするというスタイルだが、ダッジ・チャレンジャーを運転中の主人公が、「そもそもの発端は......」などと説明するのは、いかにも陳腐でいただけない。
同一画面の中で、現在と2日前のコワルスキーを向かい合わせ、二つの時間軸を併置したシュールな趣向は、見事としか言いようがない。
