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2009.10.27UP

レイダー・ホウゼンとマジックと・・・

世界的に大ヒットし、不朽の名曲といわれる主題歌「コーリング・ユー」でおなじみの映画『バグダッド・カフェ』(パーシー・アドロン監督)が、またまた公開される。これで3度目というから、この映画の人気には驚かずにいられない。

1度目は今から20年も昔、1989年公開のオリジナル・ヴァージョン。次に1994年には91分のオリジナルよりも17分長い108分の[完全版]。そして3度目となる今回のヴァージョンは[ニュー・ディレクターズ・カット版]と謳われるもので、監督自らが色と構図を新たに調整し直した再編集版である。


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『バグダッド・カフェ<ニュー・ディレクターズ・カット版>』
12/5(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次ロードショー
http://www.bagdadcafe.jp/
(C)2008 KINOWELT INTERNATIONAL GmbH

舞台となるのはアメリカ西部、砂漠の真ん中にたたずむ寂れたカフェ兼モーテル兼ガス・ステーションで、その名はバグダッド・カフェ。旅行中に夫と喧嘩別れしたドイツ人のジャスミン(マリアンネ・ゼーゲブレヒト)がそこへたどり着き、気丈な女店主ブレンダ(CCH・パウンダー)を始め、一風変わった人々と交流を深めていくようになる・・・。

初公開以来、実に久しぶりにこの映画を観て、色あせるどころか、ますます新鮮な息吹を感じさせる点で、改めて感心させられてしまう。もうすっかり忘れてしまっていたシーンも数多いのだが、個人的興味をかき立てられたのは、ジャスミンがブレンダの娘と心を通わせるきっかけとなるエピソード。部屋の掃除にやってきたその娘が、ジャスミンの服に興味を抱くのだが、なぜか男物ばかり。実は興奮したジャスミンが喧嘩別れのとき、誤って夫のスーツケースを取り違えたのだった。

その中のひとつがサスペンダー付きの革製の半ズボンで、バヴァリア地方の伝統的な衣装であるレイダー・ホウゼンと呼ばれるものだ。実はごく最近、このレイダー・ホウゼンを着用したあるアーティストの姿を眺めたばかりだったので、うれしくなってしまったのだ。

うれしいといえば、この映画の中盤から、ジャスミンが得意のマジックの数々を披露してくれること。特撮なのか実演なのかは分からないが、ゼーゲブレヒトの演技は実に見事だ。

マジックという点ではこれまた素晴らしいショーを楽しませてくれるのが、例のレイダー・ホウゼンが大好きなアーティストで、彼の名はルーファス・ウェインライトという。『ミルウォーキー・アット・ラスト!』は彼が最近発表したDVDだが、内容は2007年8月27日、ミルウォーキーのパブスト・シアターに於けるコンサートの模様を収めたライヴ・ドキュメンタリーである。そしてこれが、もう文句なしに楽しいのである!


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ルーファス・ウェインライト『ミルウォーキー・アット・ラスト!
(DECCA/ユニバーサル ミュージック)

実はこのDVDに収録されたコンサートとほとんど同じ内容の公演を、ルーファスは翌年の年明け早々にこの日本でも実現させており、めったにコンサートには出向かない僕も大ファンのひとりとしてはせ参じたのだが、そのときの感激いまだ覚めやらずという状態でこのDVDの発表は最高のプレゼントだ。

それだけではない。僕たちが目にしたステージの模様だけではなく、キャメラはルーファスの楽屋へも侵入して、彼の素顔をも垣間見させてくれる。オープニングでいきなりボーイ・フレンドとキッスをかわすルーファスの姿は、彼が以前からカミング・アウトしてきたゲイであることを知らない人たちにはショッキングかもしれない。また、バンドのメンバーたちとの雰囲気も和気あいあい。ステージ衣装のフェイク・ジュエリーの数々を手にしてはしゃぐ様子は、まるで全員がゲイ?という趣だが、はたして?

このコンサートで僕が一番感動したのは、「ジ・アート・ティーチャー」という曲で、美術教師に恋をしたカレッジ・ガールの切々たる思いを歌い上げたもの。フィリップ・グラスのミニマル・ミュージックにインスパイアされたルーファスのピアノの弾き語りだが、レコードとは違いステージではフレンチ・ホルンがひっそりと寄り添う。このアレンジがフレンチ・ホルン大好きの僕にはたまらない魅力で、鳥肌が立つような感動を味わった。

さて、レイダー・ホウゼンが登場するのは休憩後の後半の趣向で、彼の姿に観客からカワイイ!の声が上がる。実際ボーイッシュなこのスタイルが彼をより若々しく見せる効果は絶大で、よほど気に入ったのか『リリース・ザ・スターズ』('07)というアルバムのインナー・スリーヴは彼のレイダー・ホウゼン姿で埋め尽くされているほどである。

そしてマジック! ルーファスのマジックはジャスミンのそれとは大いに趣を異にする。虚空からコインを取り出してみせるというようなマジックではない。むしろ思いもよらぬ趣向で、観客をアッといわせるという意味でのマジックだ。

それはアンコールになってから披露される。なんと楽屋から慌てて出てきた、とでもいう風に真っ白のバス・ローブに身を包んだルーファスが3曲歌い終えたところで、椅子にかけると大きなイヤリングを付け、真っ赤なルージュを唇に、それからハイヒール・シューズを・・・一瞬の暗転の後、ステージに立っていたのは、バス・ローブの下から現れたタキシード・ジャケットにソフト帽にハイ・ヒールというあでやかな美女!

曲は「ゲット・ハッピー」。往年のハリウッド・ミュージカルの大スター、ジュディ・ガーランド(あのライザ・ミネリのお母さん!)のヒット・ソングを歌うルーファスのいでたちも実はジュディのトレード・マーク・スタイルという絶妙の趣向なのである。ジュディの男装が、ルーファスの女装と一体となる、というなんとも倒錯的ユーモア、ジョークがすばらしい!

ルーファスのこのサーヴィス精神に呼応するごとく、観客はゲイのカップルだけでなく、文字どおりの老若男女の誰もが幸せそうな、楽しそうな笑顔でいっぱい。バグダッド・カフェでジャスミンに拍手を送っていた客たちも、皆同じ笑顔だった。

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今野雄二(映画・音楽評論家)
1943年生まれ。北海道出身。国際基督教大学(ICU) 卒業後、出版社勤務を経て評論活動へ。「11PM」など数々のTV、ラジオ番組で映画、音楽を紹介。「週刊朝日」の星とり評を連載中。

Title Photo:Tsuyoshi Harikae
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