

食べ物の話ばかりで恐縮です。“アペリティーヴォ”の話題が出た前回に続き、今回はついに日本上陸を果たした「ラデュレ」の話から。甘くて、カラフルで、コロンとした形がとっても可愛いマカロンで有名なフランスの老舗菓子店です。銀座三越の2F、ファッションフロアにお目見えしたブティック&サロンのショーケースには、ピスタチオグリーンやベビーピンク、カナリアイエローなど色とりどりのお菓子が並びます。これを目指して、平日の昼間でも60分待ち、休日になれば2〜3時間待ちの列ができることも珍しくないほど。並んでいるのはもちろん女性。宮廷のようにゴージャスなサロンのインテリアも人気の秘密です。
実は、「ラデュレ」が日本で有名になったのは、ソフィア・コッポラ監督の『マリー・アントワネット』がきっかけ。触れ合いのない夫婦生活から来る満たされない心を埋めるように、マリーが贅の限りを尽くすシーンがあるのですが、豪華な衣装、靴、その他の装飾品とともに、「ラデュレ」のパステル調スウィーツも登場。画面いっぱいに並んだカラフルなお菓子の可愛さに失神寸前、という女子は少なくありませんでした。食べるのはもちろん好きだけれど、美しいお菓子って、見ているだけでも幸せな気分にさせてくれるもの。最近、マカロンやドーナツ、カップケーキを象ったインテリア小物や携帯ストラップが人気を博しているのもそのせいかもしれません。
『マリー・アントワネット』はと言えば、一部の批評家たちに酷評され、カンヌ映画祭で失笑されたものの、一般公開されてみると女子からの支持は絶大でした。それを招いたのが、華やかなスウィーツに彩られたガーリーなヴィジュアル。私の20代の知り合いたちも単なる歴史ドラマなら観ないけれど、「これは最高」と騒いでいました。とにかく「観ていて楽しい」のだとか。このように女子の心を捉えるヴィジュアル作りは、ソフィア・コッポラの得意技。さすがは、ガーリー文化の先駆者です。

この作品は、人生の終わりを迎えようとする老人ドミニクが、落雷に直撃されて不可解な若返りを果たすところから始まります。最愛の女性と別れてまで突き進んだ言語学にももう力を注ぐ時間がない──。そんな絶望を感じ、自殺を考えていた矢先のことでした。以来、彼はさらなる不思議を体験していきます。短期間にさまざまな言語をマスターできる能力を身につけたり、かつて愛した女性に生き写しのヴェロニカに出会ったり。彼が人生の最終章で迎えた“魂の再生”には、果たしてどんな意味があるのでしょうか。
これまでの彼の作品に比べると、格段に幻想的で難解です。原作は現代ルーマニア文学の巨匠ミルチャ・エリアーデの小説『若さなき若さ』。作品と出会った2年前のことを彼はこう語っています。
「この物語は、私の人生に似ている。主人公のドミニクと同じく、私も大事な作品を完成させることができず、もがき苦しんでいた。私は8年間映画を作っていなかったために、66歳にして欲求不満だった。ビジネスは成功していたが、クリエイティブ・ライフは満たされていなかったのだ」
彼は「映画を作らなかった」のではなく、「作れなかった」のですね。若くして成功を手にした彼は、66という年齢を迎え、もう以前のようには映画が作れないかもしれないという不安と焦りから、“イマジネーション”と“クリエイティビティ”を見失っていたのかもしれません。それが、小説『若さなき若さ』と出会い、ドミニクよろしくインスピレーションの雷鳴に打たれ、クリエイター魂を再生させたというところでしょうか。その後は、映画化権を入手する前から、この映画を作るという思いで夢中になったそうです。こうして復活した彼は、今まで以上にパワフルです。今年69歳となるというのに、ここまで作風を変え、新しいことに挑むなんて驚き。彼の内面にみなぎる、その凄まじい若さにあやからない手はないでしょう。
ガーリーテイストが大好きな女の子たち(=コッポラと言えば、ソフィアのことだと思っている若い女性たち)に、この映画で一発ガツンとおじさんの底ヂカラを見せつけるのもいいかもしれません。最近は、ルイ・ヴィトンの広告に父娘で登場していますから、フランシス・フォードの映画は観たことがなくても興味を持っている女の子はいるかもしれませんし。
ただ、重ねて申しあげますが、本作はなかなか難解な作品。連れて行った女の子の顔に“?”マークが浮かび、不機嫌になられたら困るな……とちょっと不安なあなたには、ピスタチオグリーンの「ラデュレ」の包みを用意しておくことをお勧めしておきます。
映画ライター。通信社、映画祭事務局、webマガジンの編集部を経てフリーに。
映画そのものの話題はもちろん、周辺ネタを追いかけるのが好き。
現在は女性誌を中心に映画紹介、インタビュー記事を執筆。

8月30日より、(渋谷Q-AXシネマ改め)渋谷シアターTSUTAYAほかにてロードショー
上映時間:2時間4分
配給・宣伝:CKエンタテインメント
公式HP:http://www.kochou-movie.jp/
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